思い返せば、いつも唯月くんがいた。
自信のない放課後も。
赤点ギリギリのテスト前も。
失恋した雨の日も。
どんなにネガティブで、自分に自信のない私でも諦めないでいてくれた。
いつも不器用な言葉で、時には励まして、時には叱ってくれた。
どんなときも、優しさを与え続けてくれた。
───気付いてしまった。
"好き"のドアを開けた瞬間、ブワッと気持ちが溢れ出して止まらない。
ど、どうしよう。
……志賀先輩の時とは比べ物にならないドキドキに、胸が苦しくなっていく。
登校前。
自分の部屋を端から端まで行ったり来たり。
ブツブツと独り言を零しながら、火照った頬を両手で包み込む。
……こうなったら、仕方ない。
あの人に頼むしかないよね。
***
【昼休み】
ニコニコと笑う光くんからは、ワクワクという効果音が出ている。
すうっと息を吐いて、気持ちを落ち着かせようと試みるけれど、心臓はドキドキと音を立てるばかりで、一向に鎮まってくれない。
私のバカ!
なんで気付かなかったの……。
目の前には唯月くんと同じ顔。
性格は正反対な二人だけど、顔はよーーく見ないと区別できないくらい似ている。
『あ、図星☆』じゃない!!と、言いたい気持ちに蓋をして、私は静かに頷く。
サラッと"可愛い"なんて言葉を言ってしまう光くんを彼氏に持つ女の子は、きっと気苦労が耐えないんだろうな。
光くんの提案に目を輝かせて、両手を合わせる。
そんな私に、「ゆゆちゃんと可愛い弟のためだからね」と余裕のウインクを投げてくる光くん。
だけど、
もしかしたら光くんは、本命の女の子には素直になれない男の子なのかもしれない。
加えて、自分の気持ちにもすごく鈍い。
そう思うと、本当に……恋って不思議だなぁ。
恋をすると普段の自分とはちょっぴり違う、新しい自分が見え隠れする。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。