……言った。
言っちゃった。
つい勢いでコンテストに出るなんて言ってしまった。
そんな私を驚いたように見つめる杏と光くんを見て、自分の言った言葉にジワジワ後悔の波が押し寄せる。
だけど唯月くんだけは、まるで私の答えが初めから分かっていたみたいに、フッと柔らかく笑うだけだった。
"いいな?"と有無を言わさぬ唯月くんに、ゴクリと生唾を飲んで、今さら不安が押し寄せる。
プリンセスコンテストの参加者はアイドル顔負けに可愛い子ばかりだって、杏も言ってたし。
私の代わりにと言わんばかりにプクッと膨れて見せる杏。そっか……普通なら今の怒るところなんだ。
楽しそうな光くんの隣で、唯月くんは眉間に皺を寄せている。
もし光くんの言ってることが本当なら、素直に嬉しいと思っている私がいて。
だけど、反対に……
もしかしたら、"その子"は私じゃないんじゃないかな?なんて思ってしまう。
……水やりしてる時の私なんて、地味で冴えないに決まってるもん。
クシャッと私の髪を撫でた唯月くんの手は優しくて、まるで"本当だ"と言われている気がした。
言いながら、ブレザーのポケットに手を入れて、何かを取り出す。
フタを開ければ、ほんのり良い香りが広がって、くすんだピンク色が可愛い。
光くんが差し出してくれた鏡を覗き込んで、ドキドキしながら唇にひと塗りすれば……
ほんのり色づく唇。
たったこれだけのことで、ちょっとだけ自分が可愛くなれたような気がするから不思議。
私の挑戦はまだまだ始まったばかりです。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!