……うぅ、胃が痛い。
どうして楽しいことの前には、こんなにも過酷な試練が立ちはだかっているんだろう。
今日も今日とて、スーパーポジティブな杏。
いつもなら、このポジティブに救われる私だけど……今日ばかりは違う。
だって。
さすがの杏も、励ましの言葉が見つからないとばかりに言葉に詰まってしまった。
あぁ、誰か……助けてください。
それはちょっと考えただけで気が重い。
……ただでも苦手な教科を、唯月くんに教わりながらなんて……もう、それは……地獄なのでは?
嫌味ですか……。
天は二物を与えないんじゃなかったの?
……杏の言う通りかも。
こ、これは選り好みしてられる状況じゃ……ない。
***
放課後。
今日は週に2回の唯月くんによるメイク講座の日。
───だけど、今日は……。
い、言えた……!
杏と話してからも、ずっと言おうか迷っていた。だけど、いざ話してしまえば、こうして唯月くんに話を切り出せたことにホッとしている。
特に興味なさげな唯月くんの反応。
あぁ、やっぱり唯月くんにメイク以外の勉強を頼むなんてするんじゃなかったかな?
てっきり「なんで俺が」なんて言われるのかと思っていただけに、ちょっぴり拍子抜け。
だけど、唯月くんに教えてもらえると思った途端、私の中から赤点への不安が少し解消されて行くのを感じて、心が少しだけ軽くなった。
……なんて、思ったのも束の間。
次の瞬間、唯月くんが発した言葉に耳を疑った。
勉強を教えてもらえるのは有難いけど、まさか毎日唯月くんと一緒に勉強することになるなんて……。
でも、これも赤点回避のため!
が、頑張らなくちゃ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!