【昼休み】
───なら、俺を意識して生活してみれば?
だ、ダメだ……。
少し気を抜くと、最近は直ぐに唯月くんの言葉を思い出して変に意識してしまう。
確かに、恋をすると女性ホルモンのひとつ『エストロゲン』の分泌が活発になるって最近ネットで勉強した。
女の子らしい体を作るのに欠かせないホルモンで、美肌ホルモンとも呼ばれてるらしい。
きっとメイクされる度にドキドキして、正直……かなり困ってしまう。
飲み物を買いに行ったはずの杏が、突然目の前に現れて思い切り仰け反る。
『唯月くんのこと』
……なんて言えるはずもなく、視線が泳ぐ。
杏になんて言おうか悩んでいた私は、教室の入り口からクラスメイトの呼ぶ声がして、咄嗟に振り返る。
だけど、クラスメイトが手招きする横で、私を真っ直ぐ見据えているその人に、私の全てが緊張して、硬直して行くのを感じた。
***
重い空気。
重い足取り。
緊張して、吐いてしまいそう。
私を訪ねてきたのは相生 大智。
相生くんとは小学から高校までずっと一緒。
───相生くんは、私に『ブス』と言い放った張本人で、私が今日までずっと避け続けてきた人だ。
『大丈夫だよ』と、笑顔を作る余裕もないほど、私はいっぱいいっぱいで、無言のまま小さく数回頷くのが精一杯。
頭の中ではずっと、何を言われるんだろう?とビクビクしている。
咄嗟に謝ってしまったのは、『私なんかがプリンセスコンテストに出ることに対する罪悪感』を感じてしまったから。
唯月くんと光くんに言われてから、なるべくネガティブは封印してきたはずなのに、相生くんの前だとなぜかネガティブな感情が止まらない。
だけど、次の瞬間。
相生くんが勢いよく私に頭を下げて、私は何が何だか分からないまま目を見開く。
相生くんが、私のことを?
……ずっとずーっと、気にして生きてきた。
───『ブス』
相生くんの言葉が、消えてくれなかった。
なのに、
深々と頭を下げる相生くんもまた、今日この瞬間までずっとずっと、心にトゲが刺さったまま生きてきたんだろうと思うと、お互いの不器用さに切なくなった。
もうこれで、ネガティブに生きるのは終わりだ。
相生くんは勇気を出して謝ってくれた。
私は、過去を忘れて前に進むだけ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。