第18話

本当は好きだった
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2021/04/08 04:00
【昼休み】

───なら、俺を意識して生活してみれば?
松田 結々花
松田 結々花
……っ!
だ、ダメだ……。
少し気を抜くと、最近は直ぐに唯月くんの言葉を思い出して変に意識してしまう。

確かに、恋をすると女性ホルモンのひとつ『エストロゲン』の分泌が活発になるって最近ネットで勉強した。

女の子らしい体を作るのに欠かせないホルモンで、美肌ホルモンとも呼ばれてるらしい。
松田 結々花
松田 結々花
ドキドキは可愛くなるための近道。
でも、意識しちゃったら……
きっとメイクされる度にドキドキして、正直……かなり困ってしまう。
桜庭 杏
桜庭 杏
どうしたの?
さっきから百面相して
松田 結々花
松田 結々花
あ、杏!?
いつの間に戻ってきたの
飲み物を買いに行ったはずの杏が、突然目の前に現れて思い切り仰け反る。
桜庭 杏
桜庭 杏
えー、ひどい。
結々花ちゃんってば
私が戻ったことに気付かないくらい
真剣な顔して何考えてたの?
松田 結々花
松田 結々花
え?……そ、それは
『唯月くんのこと』

……なんて言えるはずもなく、視線が泳ぐ。
クラスメイト
おーい!
松田、お客さん
松田 結々花
松田 結々花
えっ
杏になんて言おうか悩んでいた私は、教室の入り口からクラスメイトの呼ぶ声がして、咄嗟に振り返る。
松田 結々花
松田 結々花
……!!
だけど、クラスメイトが手招きする横で、私を真っ直ぐ見据えているその人に、私の全てが緊張して、硬直して行くのを感じた。
***

重い空気。
重い足取り。

緊張して、吐いてしまいそう。

私を訪ねてきたのは相生 大智あいおい たいち
相生くんとは小学から高校までずっと一緒。

───相生くんは、私に『ブス』と言い放った張本人で、私が今日までずっと避け続けてきた人だ。
相生 大智
急に……悪ぃ
松田 結々花
松田 結々花
…………
『大丈夫だよ』と、笑顔を作る余裕もないほど、私はいっぱいいっぱいで、無言のまま小さく数回頷くのが精一杯。

頭の中ではずっと、何を言われるんだろう?とビクビクしている。
相生 大智
……プリンセスコンテスト
出るんだって?
松田 結々花
松田 結々花
……っ!
相生 大智
同じクラスのやつから聞いた
松田 結々花
松田 結々花
……ご、ごめん
咄嗟に謝ってしまったのは、『私なんかがプリンセスコンテストに出ることに対する罪悪感』を感じてしまったから。

唯月くんと光くんに言われてから、なるべくネガティブは封印してきたはずなのに、相生くんの前だとなぜかネガティブな感情が止まらない。
相生 大智
なんで松田が謝んだよ。
……俺の方こそ、本当にごめん
だけど、次の瞬間。
相生くんが勢いよく私に頭を下げて、私は何が何だか分からないまま目を見開く。
松田 結々花
松田 結々花
あ、相生くん?
相生 大智
小学生の頃、松田に
『ブス』って言ったことあったろ。
あの日のこと今でもずっと後悔してる
相生 大智
松田のこと『ブス』なんて、
本当はこれっぽっちも思ってない
松田 結々花
松田 結々花
えっ……?何言って、
相生 大智
本当はずっと、好きだった
相生 大智
好きな子に素直になれなくて、
今考えればすげぇ子どもだった
松田 結々花
松田 結々花
す、……好き、って
相生くんが、私のことを?
……ずっとずーっと、気にして生きてきた。

───『ブス』

相生くんの言葉が、消えてくれなかった。
なのに、
相生 大智
ずっと気にしてた。
あの日、俺のせいで
松田が変わった気がして
松田 結々花
松田 結々花
……っ
相生 大智
あの時は、本当にごめん。
……コンテスト、応援してる
深々と頭を下げる相生くんもまた、今日この瞬間までずっとずっと、心にトゲが刺さったまま生きてきたんだろうと思うと、お互いの不器用さに切なくなった。
松田 結々花
松田 結々花
……相生くん、ありがとう
もうこれで、ネガティブに生きるのは終わりだ。
相生くんは勇気を出して謝ってくれた。

私は、過去を忘れて前に進むだけ。

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