第13話

甘く香る練り香水
9,180
2021/03/04 04:00
中条 光
中条 光
ってことで、はい!
松田 結々花
松田 結々花
……こ、これは?
私の憧れの人がみんなにバレてから、数日。

昼休みに私のクラスまで来てくれた光くんは、私と杏を連れて中庭までやって来た。
中条 光
中条 光
これは、一見リップに見えるけど
桜庭 杏
桜庭 杏
実は香水なんだよ〜!
練り香水っていうやつ
中条 光
中条 光
あっ、ちょ!
それ、俺のセリフだし!
って杏ちゃん!?
光くんを半ば無視して、光くんの手からヒョイっと"練り香水"とやらを取り上げた杏は、
桜庭 杏
桜庭 杏
こうして、首筋とか手首に
くるくる〜って塗るんだよ
言いながら、私の首元にくるくると円を描くように塗ってくれる。
松田 結々花
松田 結々花
なんで、首筋とか手首に塗るの?
桜庭 杏
桜庭 杏
温度が高いところに塗ると、
ほんのり香ってくれるんだ
松田 結々花
松田 結々花
へぇ〜!そうなんだ。
あ、いい香り……
桜庭 杏
桜庭 杏
うんうん、結々花ちゃんのは
フローラル系だね!
桜庭 杏
桜庭 杏
私はちょっぴりフルーティーな
練り香水を付けてるんだ〜
松田 結々花
松田 結々花
杏っていつも良い香りがするな〜って
思ってたけど、練り香水だったんだね
中条 光
中条 光
練り香水はアルコールを
使ってない分、液体香水よりも
ほんのり優しく香ってくれるよ
中条 光
中条 光
うなじとか、あとは
髪に塗るのもオススメ!
杏に負けじと、練り香水について解説してくれる光くんは、やっぱり知識が豊富だ。

ふんわり香る女の子って憧れるなぁと思っていたけど、いざ自分からいい匂いがすると、ちょっぴりドキドキしてしまう。
中条 光
中条 光
この香り、気に入ってくれた?
松田 結々花
松田 結々花
うん……すごくいい匂い!
中条 光
中条 光
良かった。
それ、ゆゆちゃんにあげる
松田 結々花
松田 結々花
え、もらっちゃっていいの?
中条 光
中条 光
もちろん!
……と、その代わり。
ゆゆちゃんにミッションを1つ!
桜庭 杏
桜庭 杏
ミッション?
松田 結々花
松田 結々花
……ミッション
イタズラに笑う光くんに一瞬で緊張が走る。
……ど、どんなミッションだろう?
中条 光
中条 光
心配しなくて大丈夫!
簡単なミッションだから
中条 光
中条 光
この練り香水の匂いが
悠燈に香るくらい近づくこと!
"ね?簡単でしょ?"とでも言いたげに、ウインクを決め込む光くんに、私は開いた口が塞がらない。

だ、だって……練り香水は液体香水よりもほんのり香るって言ってたし。つまり、グッと近付かないと気づかれないんじゃないの!?
松田 結々花
松田 結々花
ど、どれくらい近づいたら
香るのか分からないし……
中条 光
中条 光
んー?
───グイッ
松田 結々花
松田 結々花
うぁ、
中条 光
中条 光
これくらい、かな?
松田 結々花
松田 結々花
……っ!!
不意に私の手首を掴んで、自分へと引き寄せた光くんにドキリと心臓が跳ねた。

その瞬間、フワッと香る練り香水。
……た、確かに……香ったけど、こんなに志賀先輩と近づくチャンスなんて絶対に訪れるわけないよ!
***

───放課後。
松田 結々花
松田 結々花
あ、唯月くん。
今帰り?
中条 唯月
中条 唯月
おう
生徒玄関を出てすぐのところで、前を歩く唯月くんを見かけた私は駆け寄った。
松田 結々花
松田 結々花
光くんは一緒じゃないんだね
中条 唯月
中条 唯月
あー、なんか今日は放課後に
予定があるって先に帰った
松田 結々花
松田 結々花
そうなんだ。
じゃあ、一緒に帰ってもいい?
中条 唯月
中条 唯月
……別にいいけど、お前
それだけ言って、私との距離をグッと詰めた唯月くんに、一瞬、息をするのも忘れてしまう。

唯月くんが離れていく気配に、再び思い出したように酸素を取り込んで、勢いよく吐き出した。
中条 唯月
中条 唯月
香水つけてる?
松田 結々花
松田 結々花
わ、分かる?
今日、光くんにもらった
練り香水を付けてるんだ
中条 唯月
中条 唯月
へぇ、練り香水……。
どうせ、練り香水それで悠燈に
アプローチしろって言われたんだろ?
松田 結々花
松田 結々花
……ま、まぁ。
志賀先輩にも香るくらい
近づくミッションを課せられて
中条 唯月
中条 唯月
結々花にそんなあざといこと
できるわけねぇじゃん
松田 結々花
松田 結々花
……そ、それは、
……そうなんだけど
中条 唯月
中条 唯月
いいんだよ、自然体で。
その方がお前は可愛い
松田 結々花
松田 結々花
か、かわ……っ!?
サラッと告げられた言葉に、胸がジリッと焼ける音がした。

「帰るぞ」と歩き出してしまう唯月くんの後ろ姿に、自分じゃどうしていいか分からないくらい、胸がキューッと締め付けられて苦しい。

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