第15話
唯月くんの魔法の手
……ど、ど、どうしよう。
志賀先輩のこと、好きかもしれないと思った瞬間から意識して止まらない。
見かける度にドキドキして、目も合わせられなくてなって、
パァ!と嬉しそうな顔で私を覗き込む杏に、半泣きの私。
……やっぱり、これが恋なんだ。
恥ずかしくて、苦しくて、どうしていいのか分からない。
知らないうちに、すぐ前まで来ていたらしい志賀先輩に声をかけられて飛び上がる。
ハハッと笑う志賀先輩からは、本気でそう思ってるわけじゃないのが伝わってくる。
それにしても唯月くん、スポーツもできるんだ。……もはや、唯月くんに不可能なことってないんじゃないの?
***
───放課後。
今日のメイク講座には、光くんも参戦するとは聞いていたけれど……。
かれこれ15分。
これじゃ、メイク講座じゃなくて恋愛講座になってしまいそうだ。
……私にはちょうどいい。
そう思う気持ちに嘘はない。
───『ブス』。
耳を澄ませば聞こえてくる気がする、あの日の声。幼いながらに、すっごく傷ついた言葉。
……私なんかじゃ、志賀先輩には釣り合わない。
片想いするのもおこがましいくらい。
不意に、唯月くんの大きなため息が聞こえたかと思えば、私の手を引いて自分へと引き寄せた。
名前を呼んでも、返事はないけれど。
代わりに、唯月くんの優しい手が私の髪に触れるのを感じながら、ドキドキと高鳴る胸を誤魔化した。
そう言って、唯月くんが見せてくれたのは鏡に映るゆるいハーフアップヘアの私。
す、すごい……たったこれだけなのに、私じゃないみたい。いつもよりずっとオシャレに仕上がってる。
そう言って笑ってくれる唯月くん。
だけど、本当にいつも私を可愛くしてくれる唯月くんの手は魔法みたいなんだもん。
だから、唯月くんありがとう。