風が吹くのが肌寒かった。今日は1月1日、初詣だ。
橘が俺の口が開くのを待っていた。俺は久々に外でカツラを外し、風にゆらされる髪の毛を鬱陶しく思った。
上手く言葉が出てこない。どう伝えればいいのかよくわからなくて、昔作文を作った経験を必死に思い出す。そんな思い出した光景が駄目だったのかもしれない。
いきなり口から最低な言葉が出た。
うん。手遅れかもしれない。何とか持ち直そうと頭をひねるが出てこない。橘はどこか挙動不審になっていた。
やばい、ドン引かれてそう…。
おみくじの言葉を思い出す。
当たって砕けるのが吉でしょう。
当たるのが吉では無い。砕けるまでがシナリオなのが、どうも俺らしい。
…………絶対に、断られるとわかってる。だから、自暴自棄にもなっているのかもしれない。
完全に理解してないまま橘がこちらを見た。理解しようとしてくれてるのはわかる。うん、意味わかんないよね、自分でも引くよ。
もう……いいんだ。砕けても……。
言っ……た………………。
よく上手くまとめたな俺。最初の方やばかったぞ。
信じられないと言った表情で橘が俺を見た。そりゃ……そうだよな。
しばらくの沈黙の中、電話の着信音が目立った。
しばらく橘があぁ、はいなど相槌を打つばかりだったが、急に橘の目が見開いた。
そういい橘はすぐに走っていった。
1人きりになり、急に冷静になったのか。俺は一気に床に座り込んだ…。
何故言いたくなった。引かれるかも。友達にもなれなくなる。同性愛。嫌われる。壊れる。変わる。離れる。距離を置かれる。
色んな言葉がぐるぐると回った。橘が俺の事を好きというのは想像はできなかったが、その時恐怖症が発症しない確証もなかった。
なのに…………なんで言った?
風が吹くのが……肌寒かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!