中はあったかかった。外が寒いだけあってギャップが凄い。出来ればずっといたい…。
か細い声を出す。何回来ても病院はなれない。
最初の方は馬渕がずっと帰りに付き添ってくれたが、流石に申し訳なくてお断りした。
親父が変なってたのは前からだし、俺もこんなんで友達と居てないと崩壊するようなメンタルでいたくない。
父が俺を花織と呼ぶのは、入院してから珍しいことではなくなった。精神安定剤を飲んだせいか体調は良くなってきている。
だがたまにまだ俺の事を母さんの名前で呼ぶことはある。
だから失礼しますの言い方は毎回気をつける。
しばらく沈黙が流れる。親父も、話す内容がなくて困ってるのだろうか…。
しばらく手をいじった。緊張しているせいだ。
それでも、話す内容がなくても俺は面会時間が終わるまでずっとここに座っている。
親父は……完全に回復する日は来るだろうか…。
いきなりの声に驚く。父親から話し始めたのは初めてだ。
思うより沈黙が続いたので聞き返す。出来るだけ穏やかな笑顔を作った。お母さんのように。
そういえば、父親は入院してから花織の性別について何も言ったことがない。
だから俺も中性的に、いや。女のように話していた。それが気に触ったのか…。
返答に困る。いいのだろうか、ここで男と言ってしまって……。
そしたら…どうな…いや、どうなるのだろう?
色々なことが頭の中でぐるぐる回る。その考える中に遊馬が出てくるのは必然で……。俺は唇を噛んだ。
その言葉が遊馬から告白されたのに影響されたのかもわからない。ただ、多分そうだろうとも思えた。
男として生活したかったなんて……何度思い、願ったか。
そしてその思いが1番強くなったのが、初詣のあの瞬間だったような気がした。
父親の言葉に驚く。母親が……死んでることを認めた…?その口ぶりはまるで、母親が死ぬ前の頼りがいのあった父のようだった。
責任感がこもるその声に、何も返せなかった。
確かに…………その通りだから。
自覚が…あるのか。
自分で弁解してるけど、言ってることが意味不明だ。それに勝手に悲しくなる。
俺は男でいたいのか女でいたいのか。男でいたい。という俺の願いに対してこの喋り方は支離滅裂すぎる。
その瞬間、俺は色んなことを考えた。過去のこと。父のこと、母のこと。……遊馬のこと。
元の性別がどうかとかは関係なかった。
「俺はお前が男でも女でも……
付き合って欲しいって話なの!!」
俺の好きな人が勇気を振り絞って言ってくれた言葉だから…………。
俺は。真剣に考える。元が男だからとかじゃない…。ただ、俺は……
たった、それだけの話だった。
…………あぁ…どうして、なんでこんなに唐突に……。
全身が震えた。頬がビリビリとしてくる。顔に水滴がしたたった。何度も、何度も。
俺は泣いた。子供っぽい声で、幼稚園児のような姿で、泣きじゃくった。
言った。自分から……。男の道を、自分で選んだ。
父が謝ったのは、
俺が男だと教えてくれた時以来の二回目だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。