ここには術を使う鬼はいないのだろうか。
単純な攻撃を繰り出す者ばかりだ。
軽く10体程度は倒した。
それでもまだ数が減らない。
ふと気がつく。
冨岡さんの方から音がしない。
振り返れば、冨岡さんが音も立てずに次々と鬼を斬っていく姿が目に入る。
さすが柱だ...心配する必要なんてなかったわ。
冨岡さんの戦いぶりに目を奪われ、近づいてくる鬼の気配に気づかなかった。
目の前に迫る鬼の攻撃。
.....だめだ、避けられない。
強烈な蹴りが私の横腹に入る。
......深い傷を負ったところだった。
全く無防備な状態で受けた攻撃だ、今ので骨も2、3本折れただろう。
吹き飛ばされた私はそのまま木に衝突した。
物凄い音だ、自分でもこんな攻撃を受けてよく生きてるなって思う。
口に手を当てて咳き込めば、その手にはべっとりと血がついた。
鬼を次々と斬りながら私の元まで走ってくる冨岡さんの姿が目に入る。
まだまだ鬼は現れる。
冨岡さんに甘えるわけにはいかない。
痛くても足は動く。
腕も動く、鬼は斬れる。
次から次へと、
ッぐァ...!!
後ろから現れた鬼に背中を斬られる。
だんだん足が動かなくなる。
そして目の前が真っ白になって......
.......だめだ、もう、動けない。
私はその場で、膝から崩れ落ちた。
そんな私を冨岡さんが片手で抱き抱え、鬼にを斬って行く。
...先程より、鬼が減った気がする。
最後に残った1体が冨岡さんを恐れたのか、逃げ出した。
でもそんな鬼も容赦なく斬る。
刀を鞘にしまうと、私を横に抱いて全力疾走で山を駆け降りていく。
せっかく綺麗だった冨岡さんの羽織が、私の血で汚れていく。
こんな時でも思い浮かぶのは、善逸だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!