ここでハッとした。
こいつに逆らってしまったら。
善逸の表情が暗くなる。
やめて、傷付けないで。
顔を上げた善逸の大きな瞳からは
ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
俯く私の顔を覗き込んだ信次郎さん。
......その表情は
先程まで感じていた不気味さよりはるか上、
まるで恐怖を覚えさせるような、そんな笑みを浮かべていた。
首の後ろを掴まれた。
その手はとてもひんやりしていて、余計に恐怖心を煽った。
__“どうなっても“
......そんなの、良くないに決まってるよ。
彼が無事なら私はなんだってする。
あぁ、見たくなかった。
善逸のこんな表情を見るために従ってるわけじゃないのに...。
私は幸せになるなんて、できないのだろう。
出来ることならもう一度、あの頃に戻りたい__
信次郎さんに肩を抱かれ、その場を後にしようとしたときだった。
善逸が私の手を掴んだ。
私が痛がらない程度の、優しい力で。
真剣な目で信次郎さんを睨む。
見るからに自分よりも年上で先輩だって事も分かるのに、それでも善逸は信次郎さんに立ち向かっていく。
変わってないなぁ。
やっぱり好きだなぁ。
私の視界もだんだんぼやけていく。
狂気さえ感じるこの人の言葉。
あぁ、声をかけられた時返事なんてしなければ良かった。
まさかこんなことになるなんて、思ってもいなかったから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。