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とある日が差し込む部屋で大きい男が2人、
資料を見比べながら話をしていた。
1人は神奈川県警の柳田晋平。
もう1人は警察学校教官の片野坂譲。
この2人はかつてバディにして親友。
所謂、"同期"という奴だった。
柳田「…我々には何もできない。
お前あの3人にそう言ったよな?」
片野坂「…」
柳田「我々って、(笑)
お前も含まれちゃってんじゃねえかよ」
片野坂「………俺は教官だ。捜査員じゃない」
そう言って椅子から立ち上がり、
スタスタとドアの方へ歩いて行く。
片野坂は"今は"教官だが、
数年前まで現場の捜査官で犯罪心理学に
精通した優秀なプロファイラーであった。
それを知っている"同期"はきっと片野坂を
現場に連れ戻したいのだろう。
部屋を出て行こうとする片野坂を引き止めた。
柳田「教官をやっていようが、警察官に
変わりはない。…なあ、お前いつになったら
昔のお前に戻んだよ。事件を解決しようって
いう気持ちはもう0か?」
片野坂「…ここにきてからも
お前に頼まれれば捜査を手伝ってきた」
柳田「でももう9年だ。
普通はとっくに現場に復帰してる年数だろ。
どうしてそれをお前、、、」
何かを言いかけた柳田の
言葉を遮るように振り返った片野坂。
その目は、深い何かを物語っているようだ。
柳田はそれを察したのか少し呆れて
立ち上がり片野坂に近づいた。
柳田「なあ。あの件は忘れよう。
いい加減戻ってこい」
片野坂「…ここに残る」
柳田「、、、はぁ。
あの3人の方がよっぽど警察官らしい」
片野坂「ご忠告、感謝するよ。
成宮がとても喜びそうだ」
柳田「あぁ、あなたな………」
片野坂「…成宮と知り合いなのか」
柳田「あなたの母親…っあー、何でもねえ。
あそこは親が2人とも警察官なんだよ。
よくガキの頃俺が世話してやってたんだ」
片野坂「、、、?親が2人とも?」
柳田「?おう」
片野坂「…成宮は面接の時
家族は母親だけだと言っていたが」
柳田「………ま、色々あるんだわ、
あいつにも。それを聞き出すのが心理学、
お前の得意分野だろ。がんばれよ」
そう言って片野坂の肩を叩く柳田。
片野坂は難しそうな顔をした後、すぐ元に戻って
そのまま扉を開けた。目線の先に映ったのは
1人の女性。警察学校助教の及川蘭子だ。
きっと今の話は全て聞いていたであろう。
一瞬立ち止まったが何事もなかったかのように
片野坂は部屋を出て行き、代わりに及川が
部屋に残っている柳田に話しかけた。
及川「あの件ってなんですか?わたしも
気になってました。普通警察学校の職は2年で
配置換えとなります。しかし、片野坂教官は
もう9年も務めている。…理由が知りたい」
柳田「本人に聞けよ(笑)」
及川「………じゃあ成宮の件は?
面接で虚言があった場合不合格になるはず。
どうされるんですか、叔父さん」
その答えは、かえってこなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。