ゆりにゃんが慣れた手つきでチョコペンを走らせると、あっという間に茶トラが描かれた。うにゃーっとお茶目に鳴いている感じが可愛い。
思わず、私は感嘆してしまった。小学生のバレンタインでチョコペンを使ったことがあるが、得たいの知れない生き物を誕生させてしまった、ビターな思い出がある。
さすがはナンバーワンメイド……。
突然、ゆりにゃんが小原くんに戻った。その柔和な目を見た瞬間、私の心臓はドクンッと大きく跳ねた。
なんでだろう。メイド服着てるのに、猫耳付けてるのに、メイクしてるのに。
なんで顔が熱くなってくるの!? 部屋が暑いわけじゃないのに。
まさか……。
いつの間にか、小原くんからまがまがしいオーラが溢れていた。やはり、メイドとして働いていることは秘密だったらしい。
すごい。笑顔を崩していないのに、怒りが伝わってくる……。
さすがの松浦くんも少し怖じ気づいたが、早口で訳を説明をし始めた。
松浦くんが私に助けを求めてきた。
確かに、私が小原くんに会いたかったのは事実。それに、小原くんの秘密を知れたのはなんか嬉しいし。
とりあえず、松浦くんを援護しよう。
小原くんはすぐに理解してくれた。
奥の方からゆりにゃんを呼ぶ声が聞こえてきた。すると、小原くんは一瞬でゆりにゃんに戻った。
グーにした手を曲げてネコのポーズをとった後、ゆりにゃんはテーブルを後にした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。