第34話

リハーサル
3,715
2020/12/29 07:26
ダンス部の女子生徒
そこ、遅れてる!
 アップテンポの曲の中を突き抜けて、鋭いダメ出しが私に飛んできた。

 数える余裕なんてないけど、多分私へのダメ出しは百回を越えた。

 それでも、周りは曲が終わるまで止まってくれない。

 これ以上、ダメ出し記録を更新しないためにも、ダンスに集中しなくちゃ……。


 

山本 萌
きゃあっ!
 力みすぎたのか、体育館シューズが上手く床をつかめず、私は盛大にしりもちをついた。

 このときは一時中断になった。私はすぐに立ち上がって、大丈夫だと周りに答えた。

 ほとんどの人は心配してくれたけど、隣のポジションの木下さんは、相変わらず冷たい視線を投げかけてきた。
木下 貴子
ちょっと、今のしりもちはないでしょ。明日が本番なのよ?
 でも、木下さんの言ってることは、全く間違っていない。本当に、その通り。


 今この時間は、明日の文化祭に向けての最後のリハーサル練習なのだから。




 私は、深く頭を下げた。
山本 萌
ごめんなさい。木下さんの言う通りだよ
 顔をあげると、木下さんは驚いて目を見開いていた。
ダンス部の女子生徒
じゃあ、サビから再開するよー
 サビか……曲が転調して、足の動きが複雑すぎるところだ。





 今は、アレは忘れなきゃ、忘れなきゃ!


 私は両手で頬を叩いた。そのジンジンした痛みは、リハーサルが終わるまで頬に残った。



















 私たち1年1組の前は、あの6組がリハーサルを行う時間だった。

 すでに、6組のシンデレラはすごいと、学年中でうわさになっていて、1組は待機中にそのリハーサルを見ることができると嬉しがっていた。

 多分、私だけが、学級委員長はくじ運が悪いと思っている。



 1組は準備に時間がかからないので、6組のリハーサルをほぼ全て見学することができた。

 幕が上がり、継母とその娘たちが登場し、シンデレラへの悪口を言い始めた。


 本当に、あの予算で作ったのかと疑うほど、衣装のクオリティーが高かった。

 さらに、その美しいドレスをガタイのいい運動部の男子が着ているのだ。

 特に、今にも胸元がはじけそうな継母役の松浦くんを見たときには、私も盛大に吹き出してしまった。




 あのムキムキな彼ら……じゃなくて、彼女たちに、笑わない人はいない。
眼鏡が似合う学級委員長
ふ、腹筋が死ぬっ……!
 学級委員長があんなに笑う姿、初めて見た。

 体育館が大爆笑の渦に包まれるなか、ふと私はあることが気になり始めた。















 
 魔法使いが現れて、お経みたいな呪文を唱えても、ステージ上が舞踏会になっても、主役の小原くんが登場していない。


 今日、小原くん休みなのかな……?










継母役の松浦くん
なにあの娘、超美人なんだけど!
 継母の声を合図に、ステージの一番後ろのカーテンが開かれ、スポットライトが当たった。


 思わず、私と1組は声をもらした。

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