アップテンポの曲の中を突き抜けて、鋭いダメ出しが私に飛んできた。
数える余裕なんてないけど、多分私へのダメ出しは百回を越えた。
それでも、周りは曲が終わるまで止まってくれない。
これ以上、ダメ出し記録を更新しないためにも、ダンスに集中しなくちゃ……。
力みすぎたのか、体育館シューズが上手く床をつかめず、私は盛大にしりもちをついた。
このときは一時中断になった。私はすぐに立ち上がって、大丈夫だと周りに答えた。
ほとんどの人は心配してくれたけど、隣のポジションの木下さんは、相変わらず冷たい視線を投げかけてきた。
でも、木下さんの言ってることは、全く間違っていない。本当に、その通り。
今この時間は、明日の文化祭に向けての最後のリハーサル練習なのだから。
私は、深く頭を下げた。
顔をあげると、木下さんは驚いて目を見開いていた。
サビか……曲が転調して、足の動きが複雑すぎるところだ。
今は、アレは忘れなきゃ、忘れなきゃ!
私は両手で頬を叩いた。そのジンジンした痛みは、リハーサルが終わるまで頬に残った。
私たち1年1組の前は、あの6組がリハーサルを行う時間だった。
すでに、6組のシンデレラはすごいと、学年中でうわさになっていて、1組は待機中にそのリハーサルを見ることができると嬉しがっていた。
多分、私だけが、学級委員長はくじ運が悪いと思っている。
1組は準備に時間がかからないので、6組のリハーサルをほぼ全て見学することができた。
幕が上がり、継母とその娘たちが登場し、シンデレラへの悪口を言い始めた。
本当に、あの予算で作ったのかと疑うほど、衣装のクオリティーが高かった。
さらに、その美しいドレスをガタイのいい運動部の男子が着ているのだ。
特に、今にも胸元がはじけそうな継母役の松浦くんを見たときには、私も盛大に吹き出してしまった。
あのムキムキな彼ら……じゃなくて、彼女たちに、笑わない人はいない。
学級委員長があんなに笑う姿、初めて見た。
体育館が大爆笑の渦に包まれるなか、ふと私はあることが気になり始めた。
魔法使いが現れて、お経みたいな呪文を唱えても、ステージ上が舞踏会になっても、主役の小原くんが登場していない。
今日、小原くん休みなのかな……?
継母の声を合図に、ステージの一番後ろのカーテンが開かれ、スポットライトが当たった。
思わず、私と1組は声をもらした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!