第36話

私は全てを受け止める
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2021/02/12 03:00
 リハーサルが終わり、教室でホームルームが行われる中、もちろん私は上の空だった。




 魔法がとけたら、必ず迎えにきて。




 どういう意味なんだろう。

 告白の返事を言うから、会いにきてほしい?

 それだったら、6組に行けばいいかもしれないけど……正直、めちゃくちゃ行きたくない。

 リハーサルの邪魔はするわ、みんなの前で好きだと叫ぶわ……そんな告白の返事なんて、絶対ノーに決まってる。

 私は大きなため息をついた。












山本 萌
でも……
 ここで逃げてしまったら、無責任すぎる。ちゃんとフラれて、けじめをつけよう。
 ホームルームが終わった瞬間、私は事前に教科書などを詰め込んでおいた鞄を持ち、教室を飛び出した。

 もともと、文化祭前なので荷物は少なめだった。



 6組の教室に向かうと、松浦くんが立っていた。私に気づくと、軽く手を振ってくれた。
松浦くん
小原に用があるんだよね
山本 萌
うん。あと……
 私は頭を深く下げた。
山本 萌
今日は、本当にごめんなさい! リハーサルの邪魔しちゃって……
松浦くん
大丈夫。みんな、メグちゃんの勇気に惚れてたよ
山本 萌
ええっ!?
松浦くん
そりゃそうだよ。あんな公の場で、叫びながら告白は、俺にはできないな~
 ひええ、思い出しただけでも死ぬほど恥ずかしい!













松浦くん
それとね、もう教室には、小原しかいないよ
 松浦くんは、私の背中を優しく叩いた。
松浦くん
じゃあ、頑張れよ!
 ま、松浦くん。まさか、私と小原くんがふたりきりになれるようにしてくれたの?




 やっぱり、松浦くんは優しいな。
山本 萌
ありがとう!
 背中を向けて、靴箱の方へ歩いていく松浦くんを見送った。













 もう後戻りしようなんて考えない。

 小原くんの返事を、ちゃんと受け止める。




 ひとつ深呼吸して、教室の戸を開けた。そこには、席で文庫本を読んでいる小原くんしかいなかった。
山本 萌
お、小原くん!
 上ずらないように声をかけると、小原くんは私に視線をうつした。

 思わず目をそらしたくなったけど、なんとか耐えることができた。





 ここで、逃げちゃだめだ。でも、なんて切り出せばいいの!?
山本 萌
えっと……あの……その……
 どうしよう、すごく挙動不審になっちゃってる。とにかく、何か言わなきゃ!
山本 萌
む、迎えにきたよ!
 そ、そうだよ! 私はシンデレラに魔法がとけたら迎えにきてほしいと頼まれた。だから、今ここにいるんだ!




 すると、小原くんは文庫本を机の上に置き、席を立った。
小原くん
待っていたぞ
 やわらかな微笑みに、胸が一気にしめつけられる。小原くんへの想いを自覚してから、どんどん苦しさが増していくのがわかる。











 ああ。やっぱり私、小原くんのことが好きなんだなあ。
小原くん
告白は、突然のことで驚いた。それと同時に、山本さんには謝らないといけないと思った
 そう言いながら、小原くんが私の目の前にきた。



 謝らないといけないこと。



 考えたくないけど、無理だってことだよね……。
小原くん
以前、山本さんのことを着せ替え人形だと言ってしまった。もし、そのときも俺に好意を抱いていたなら、山本さんを深く傷つけてしまった。すまない
 あのこと、覚えていたんだ……。







 小原くんは深々と頭を下げた後、真剣なまなざしで私を見つめた。


 もう気にしていないよ、と言おうとしていたのに、そのせいでのどの奥へ戻ってしまった。
小原くん
こんな俺を、好きになってくれてありがとう。女装の趣味を知っても、好きでいてくれた女子は、君が初めてだ
山本 萌
小原くん……
小原くん
だから、山本さんのことをもっと知りたい。もっと……好きになりたいと思っている
山本 萌
ほ、ほんと……?
 震える声で聞くと、小原くんはうなづいた。
小原くん
あの告白で、射止められてしまってな













 これ、夢じゃないよね。現実なんだよね?








 ど、どうしよう。














 嬉しさが溢れてくる……!
小原くん
これからも、俺のことを受け止めてくれるか
 私は、必死に涙をこらえながら、大きくうなづいた。
山本 萌
もちろん!



























おわり

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