リハーサルが終わり、教室でホームルームが行われる中、もちろん私は上の空だった。
魔法がとけたら、必ず迎えにきて。
どういう意味なんだろう。
告白の返事を言うから、会いにきてほしい?
それだったら、6組に行けばいいかもしれないけど……正直、めちゃくちゃ行きたくない。
リハーサルの邪魔はするわ、みんなの前で好きだと叫ぶわ……そんな告白の返事なんて、絶対ノーに決まってる。
私は大きなため息をついた。
ここで逃げてしまったら、無責任すぎる。ちゃんとフラれて、けじめをつけよう。
ホームルームが終わった瞬間、私は事前に教科書などを詰め込んでおいた鞄を持ち、教室を飛び出した。
もともと、文化祭前なので荷物は少なめだった。
6組の教室に向かうと、松浦くんが立っていた。私に気づくと、軽く手を振ってくれた。
私は頭を深く下げた。
ひええ、思い出しただけでも死ぬほど恥ずかしい!
松浦くんは、私の背中を優しく叩いた。
ま、松浦くん。まさか、私と小原くんがふたりきりになれるようにしてくれたの?
やっぱり、松浦くんは優しいな。
背中を向けて、靴箱の方へ歩いていく松浦くんを見送った。
もう後戻りしようなんて考えない。
小原くんの返事を、ちゃんと受け止める。
ひとつ深呼吸して、教室の戸を開けた。そこには、席で文庫本を読んでいる小原くんしかいなかった。
上ずらないように声をかけると、小原くんは私に視線をうつした。
思わず目をそらしたくなったけど、なんとか耐えることができた。
ここで、逃げちゃだめだ。でも、なんて切り出せばいいの!?
どうしよう、すごく挙動不審になっちゃってる。とにかく、何か言わなきゃ!
そ、そうだよ! 私はシンデレラに魔法がとけたら迎えにきてほしいと頼まれた。だから、今ここにいるんだ!
すると、小原くんは文庫本を机の上に置き、席を立った。
やわらかな微笑みに、胸が一気にしめつけられる。小原くんへの想いを自覚してから、どんどん苦しさが増していくのがわかる。
ああ。やっぱり私、小原くんのことが好きなんだなあ。
そう言いながら、小原くんが私の目の前にきた。
謝らないといけないこと。
考えたくないけど、無理だってことだよね……。
あのこと、覚えていたんだ……。
小原くんは深々と頭を下げた後、真剣なまなざしで私を見つめた。
もう気にしていないよ、と言おうとしていたのに、そのせいでのどの奥へ戻ってしまった。
震える声で聞くと、小原くんはうなづいた。
これ、夢じゃないよね。現実なんだよね?
ど、どうしよう。
嬉しさが溢れてくる……!
私は、必死に涙をこらえながら、大きくうなづいた。
おわり
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。