しまった。
小原くんに完全に気を取られて、ここに来た目的を忘れていた。
お礼を言う絶好のチャンスだったのに!
さっき援護してあげたのに、なによその態度。
でも、松浦くんは正しい。この世界にいる間は、私が会いに来たのはゆりにゃんということにしなければいけない。
あれ? それだったら、私が言いたいお礼は小原くんに対してだから、ここで言ったらダメってこと?
ようやく目的の達成が不可能なことに気がつき、私は血の気を失った。
今日の頑張りはいったい何だったんだ……。
かるぼにゃ~らを食べていた松浦くんが様子をうかがってきた。
このまま何もせずに帰るわけにはいかない。言い方が悪いけど、松浦くんを利用して、小原くんと会える機会をつくりたい。
そうだ。これならいけるかも!
なんで、こんな簡単に思いつけそうな案を、今まで思いつけなかったんだ、私!
もちろん、松浦くんは承諾してくれたので、私はようやく帰ることができた。
お代は松浦くんがおごると言ってくれたので、遠慮なくおごってもらうことにした。
ビルの自動ドアを通った私は、現実世界の空気を大きく吸った。
うん、排気ガスのにおいしかしない。
今日はすごく疲れたけど、ちょっと楽しかったかも。さあ、明日こそは絶対小原くんにお礼を言うぞ!
心の中で、私はこぶしを突き上げた。
……はずだったのに。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。