私と松浦くんは階段を上って、屋上へ続くドアの前で止まった。
ドア越しで耳をすませると、かすかに女子の声が聞こえてきた。
声の主は木下さんだと思うけど、何を言っているのかは聞き取れない。
うう、すごく気になるのに……。
すると、松浦くんが音を立てないようにドアを少しだけ開けた。
いきなり自分の名前が聞こえて、肩がビクッ上がった。それに、木下さんのこんな苛立った声を聞くのは初めてだ。
木下さんの怒りと向き合っている小原くんは、本当にすごい。今の小原くんは、どんな顔をしているんだろう。
ドアの隙間をのぞきたい衝動を抑えて、聞こえてくるふたりの会話に集中した。
どんどんヒートップしていく木下さん。今まで溜め込んでいた私への悪口を、怒りに任せて全て吐き出している。
これが、木下さんの本性だ。
松浦くんが眉をつり上げて、今にでもドアを開けそうなオーラをただよわせた。
私のことで、怒りにふるえている姿は、松浦くんが友達思いの証拠。でも、ここにいることがふたりにバレてしまってはいけない。
眉が下がった松浦くんは、いつもの爽やかな雰囲気に戻った。
少しほっとしたが、今度は小原くんの声が耳に飛び込んできた。
普段と変わらない、落ち着いた声。
その直後、パンッと頬を平手打ちした音が響いた。
止めようとしたときには、もう手遅れだった。
ものすごい勢いで、松浦くんが屋上に飛び出てしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。