昼休みが終わり、教室に戻ると、私の席の近くで木下さんが待ち構えていた。
次の授業は5分後にここで行われるので、移動教室を理由に木下さんを回避することはできない。
でも、大丈夫。たった5分の辛抱だし、次の授業を担当する先生は早く来る。
私は自分の席へ足を進めた。
すると、予想通り木下さんが声をかけてきた。
なにを企んでいるんだろう。
ドクンと心臓が跳ねた。
これって、もしかして……。
私は動揺が表に出ないように気をつけて声を出した。
木下さんは、わざとらしくモジモジしながら答えた。
さっきよりも心臓が跳ねて、一瞬息が止まった。
なんで? 松浦くんのことが気になってたんじゃなかったの!?
今まで経験したことがないくらい、胸が締め付けられて苦しくなった。
それに、どうしてもこのお願いを聞きたくない気持ちが抑えきれない。
うなづけばいいのに、首がびくともしない。
私、なんでこんなに動揺してるの!?
先生が教室の戸を開けて入ってきた。それに気づいた生徒たちは席に着き始めた。
そう笑顔で言うと、木下さんは自分の席に戻っていった。
私は授業開始のチャイムが鳴るまで、その場に立ち尽くしていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!