アーノアは、考えていた。
自分が彼女にこだわる理由を__
しかし、結論なんて出なかった。
広すぎる世界で、自分と出会ったのが
たまたま、セレネという女の子だっただけ。
彼女を助けたいに、理由なんか必要なかった。
目の前で、ひなが巣から落ちそうになっていたら
アーノアは、迷わず助けるだろう。
そして、セレネが助けを求めたならば、アーノアは
必死に走って向かうのだろう。
何が大切で、何が必要じゃないかなんて
難しすぎて考えられない___
ただ、自分の思った通りに
アーノアは、動いているだけなのである。
___物置小屋___
壁を叩き、埃が舞う中
セレネは大きな声で叫び続けた。
セレネにも、わからなかった。
あんなに煙たがっていた、アーノアの名前を、
今必死に呼んでいるなんて。
声が出なくなる、その時まで…
彼女は、たった一人の名前しか
呼べないのである。
助けを求められる、信頼できる人はこの世で
あのガータ族の青年ただ一人だけだった。
セレネの名前を心配そうに呼ぶ
アーノアの声が、物置小屋のすぐ側で
聞こえた。
壁越しで、顔は見えないはずなのに、
アーノアが、今どんな表情で話しをしているか
セレネには、すぐにわかった。
アーノアは、「少し下がって」と
伝えると、近くにあったオノを握り
力一杯振り落とした。
ガシン___ガガガッ___バキバキ
ドスーーーン___
物置小屋の扉が壊れ、中から
セレネがふらふらと出てきた。
軽くスカートの裾をめくって
見せると、アーノアが手で顔を隠しながら
と、お願いをした。
油断した隙に、スルリと長い舌を伸ばした
マリーナは、今まで見たこともないような鱗が、
顔中に現れ、見る見るうちに巨大な大蛇へと姿を変えた。
続く▶︎▶︎▶︎
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!