第38話

狂愛三部作 💛中心
1,252
2021/02/11 04:06
※多くの深読みを読んだ上での合作。Cant'stop 、eternal 、Criminalの世界観での妄想 。
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その男は人生で1度も 、




本当の意味では愛されたことがなかった 。





恵まれた環境 、

だなんて言われるのが当たり前だった 。




中間財閥 。

金持ちの一族の倅の生まれで 、

美しい容姿に 、
思慮深く淡々とした喋り口調 。





誰もが彼を女性として扱うほど 、




彼は凛として美しく 、力強く 、



とてもかっこよかった 。









彼は 、容姿の中性感からもまた 、

女性扱いを受けていた 。







時代は同性婚の当たり前の頃 。






小さい頃からのその待遇女性扱いに慣れ親しんでいた彼は 、




愛に飢え 、

孤独に包まれていたのだった 。




そんなある日のこと 。




彼にも、急な許婚の話が出た 。




彼には知らされていなかったが 、

幼少の頃から決まっていた様子だった 。




悲しいことに 、
彼が返事などする必要もなかった 。





彼には 、持って生まれた呪いがあった 。







これまで 、彼の人生を煩わせてきたのは
この呪いのせいでもあった 。




自分への愛が一定数を超えると 、

惚れられた者を操ることが出来るようになる 。





なんて物語のような話で 、
ロマンチストの欠けらも無い彼は 、

気に入るはずもなかった 。





彼はこの呪いのため 、
自分から他と距離を置くようにしていた 。






許嫁がついに家に来た 。



正確には 、許旦那とでも言おうか 。


貴族家の出身で身分の高く 、
顔もいい公爵様だ 。





正直 、いいお家柄があまり好きではなかった 。

彼は 、
許嫁を拒み続けた 。






その許旦那の桐山もまた 、
彼の呪いにかかってしまった 。
淳太
照史さん 、それは ‥?
2人だけの部屋で 、

小さな黒い箱を持つ桐山は 、
彼の傍に小さく屈み 、ひざまずいた 。
照史
淳太さん 、これを 、美しい貴方に 。

宇宙を閉じ込めたように光る石なんて 、



彼には必要も興味もなかった 。





無制限の愛を1つに狭めてしまう 、
そんなただのリングなんて 、




自分には光ってさえも見えなかったのだ 。




だが 、彼には決定権すらもない 。




元々婚約話を持ち出したのは 、
彼のことを考えもしない無責任な父親 。




そう 、彼に女性扱いを始めた張本人だった 。






女の子が良かった 、なんて言われる度 、
彼の胸はえぐられ続けた 。






彼は 、父親にだけは逆らえなかった 。




呪いの元凶が父親だということに 、
幼少期から気づいていた 。




親に愛されていれば 、こんな忌々しい力‥ !




彼は 、婚約者に手を取られ 、

長い指に輪を通された 。







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男は 、自覚のある身分違いの恋に追われていた 。



名を望と言い 、ある財閥家に勤めていた 。


通常は考えることすら出来ない 、
憧れの延長線上 。


そして 、自分を雇う側の人間を 。






一方的なんて言葉が
似合ってしまうのが恨めしかった 。


あわよくば 、好きになっていて欲しかった 。



ただ 、望の恋する人に 、
未来を託された恋人がいることに違いはなかった 。






優しく微笑まれる度 、勘違いを重ねてしまう 。


驚くべきことに 、



望の好意を向ける彼 、‥

淳太にも 、望への好意はあったのだ 。




彼は恋愛対象として 、望を捉えていた 。





舞踏会会場 。


望の愛す淳太の為だけの場 。




今日の為だけに吊るし上げられた 、
大型のオーナメントが 、


淳太の琥珀の混じった様な
くりくりとした黒な瞳に映り込み 、


思わず業務を忘れ 、飛びつきそうなくらいに

瞳に吸い込まれていった 。






会場特有のざわめきにかき消されるため息 。



淳太様のための日だから 、しっかりしよう 。


望は気持ちを持ち直したように見えた 。




望は 、呼吸を整えて 、

傍にいる 、
『 本日の主役 』に微笑んでみせた 。





淳太様もそう返してくれるだろうという 、


淡い淡い 、期待を込めて 。







長年仕えていた彼の予想を反し 、

彼はいつの間にか慣れてしまっていた
婚約の証を見つめ 、


そして 、意味ありげに目を伏せた 。




望は気づいた 。


笑顔の裏側にそっと見える 、淳太の苦笑いに 、


本当の気持ちに 。



長いまつ毛に見合う美しい笑顔でないことは 、

望にはしっかり伝わった 。




目が合っても 、離せないでいた 。





少なくとも 、望には聞こえたらしい 。

『 助けて欲しい 』 、と 、


そんな 、意味ありげに俯かないで 。

僕の好きな貴方に 、そんな顔は似合わない 。




ずっと 、俺の傍に居てください 。
そうすることが容易くなく 、
1番の外道であることなど分かっています 。
彼は 、彼への思いを胸の中で叫んだ 。



届かなくていい 。


いつか 、生きて貴方に聞かせたい 。




僕の本当の気持ちを 。
でも 、この思いを遂げたくて 。
もう 、止められないんです 。




僕が 、僕のことを 。








気づけば 、舞踏会の開始30分前 。



主役の2人も揃っていない会場に 、



淳太と望は忽然こつぜんと姿を消していた 。







望は 、桐山の存在に精神を狂わされた 。





自分の幸せ以外考えられない訳ではなかった 、



だが 。



自分の目の前で 、愛する人を奪われるのが 。





どれだけ 、辛いことか !






常識があった上での行動だったのが 、
更に恐ろしい点であった 。





愛する人の幸せのため 、
願われてもいない行動に出たのだ 。



望は 、正義感が強かった 。



罪悪感を振り払い 、走った 。



淳太の手を引き 、
屋敷の長い廊下を駆け出していく 。




狂っているとしか考えられない行動に 、
周囲は驚きの声を上げた 。





未だ予定の半数しか到着していないが 、
驚いた客も追いかけてきた 。




愛されている淳太は 、


これ程までの狂った愛に 、

満たされたと感じた 。







だが 、回り出した歯車は

もう止まらなくなった 。





彼らは気づいていた 。


この後 、どうなるかなんてこと 。

命をかける 、愛だと 。






ただ 、何も考えず駆け続けた 。






ふと 、正気を取り戻した彼は 、
裏口へのドアで立ち止まった 。
僕は 、このままで 、いいんだろうか 。
戸を前にし 、1歩も動けなかった 。

動くことが 、出来なかった 。







これまで無我夢中で 、

集る集団から逃げ出していた事に
違和感を覚えるほど 。






望は 、愛だけを掲げて

ここまで駆けてきていた 。








それが、いかに計画性がないか 、

いかに 、脆いか 。





突然 、そんなことが脳裏に文字化された 。





ただ思いのまま走れど 、
どこに行き着くかなど分からない 。



望は 、淳太を愛しすぎた 。




その愛が汚れている事なんて 、
彼自身が1番気づいていた 。






戸惑いがちに 、望は彼の瞳を見つめる 。
もう 、止められないんだ 。
瞳が覚悟の色に染まっていたこと等 、
長年仕えた彼にしかわからなかった 。



もう自分の愛する人も 、
自分が何をしたいかも分からなくなっていた 。







望 。俺を連れて行って 。






ここまで自分を愛してくれる人に
出会えなかったからだろう 、




自分で無意識に呪いをかけていたことを
忘れるほど 、


淳太は 、望に対して執着していた 。
正しいかなんて 、自分で決める 。ただ 、僕の出来ることを 、、
淳太
どうしたん 、?
淳太は 、躊躇いがちに聞いた 。
いえ 、何でもございません 。

そう言う望の目には入っていた 。




淳太が 、態と指の証を落としたことに 。




望は 、気づいていた 。



呪いにかけられていること 、

それが 、愛する淳太のものであること 。


躰が勝手に動いて 、
ただ淳太様をお連れして走る 。









全て 、望は愛する人の為に動いた 。

望は、それでいいとさえ感じていた 。






2人なら 、
何も怖くないとさえ 、思えた 。







覚悟を決めた望にとって 、






淳太は 、生まれて初めて 、


愛の意味を教えてくれた人だったから 。





自分の存在を 、教えてくれた人だから 。
貴方が 、僕の全てです 、
望は 、淳太がいなければ生きていけなくなった 。




それほど 、望にとって淳太の命は 、


重みを増したものであった 。













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男はまた2人💗🧡と同じように 、


聡明で美しい彼を愛していた 。




身分違いであること 、
一方的であることなどを分かりきっていた男は 、




見慣れていた者の首元から散る火花

軽く見据え 、

その者の帰りを待つ淳太の手を取り 、走った。






淳太は 、狂っていたまたこの男のことも愛していた





男 、



重岡は 、彼に信用されるならば 、


と 、


自分の腕を見せつけ 、切りつけた 。





ナイフの布地と擦れる音 。

染み出す 、くすんだ朱殷しゅあんの色をした血 。



しげ
貴方の為なら 、身も献ぐ思いです 、
自分の腕を楽しげに切りつける 。


ボロボロになった正装のワイシャツ 。


朱殷色に染まっていくのを 、
ただ見つめることしかできない 。





重岡は 、愛する人に心配の目を向けられた 。





実際 、自分の腕を切りつけてみせる重岡に 、

淳太は愛されていると自覚し 、
喜びを感じていたそう 。





重岡は 、淳太への気持ちを隠しきっていた 。




重岡は言うなれば朱殷の様な人だった 。



褪せていて艶めかしく 、
冷静で感情的 。


真ん中も影も似合い 、

空気もよく読めていて 、
何でもそつなくこなしていた 。



2面性の多い 、対句の似合う男 。








だが 、使用人という立場を
1番に理解していた彼は 、



これまで 、2人と同じように彼を愛していても 、
嫉妬が愛に勝ることはなかった 。






それは 、婚約が正式に発表されてからも
変わらなかった 。




だが 。

愛しい彼が 、予想だにしていなかった相手に
連れ去られた 。






その瞬間からだ 。



重岡の計算が 、全て壊れたのは 。




彼への愛は、嫉妬により重さを増し、
歯車は更に回る速さを早めていき、
もう、止まらなくなってしまった。

彼は、彼を見て戸惑う姿でさえも
愛しく思えてしまった。



そんな暇がないほどに、
手を引き走っているのだが。


人波にもまれても、手は繋いだまま、
群衆をかき分けて進んで行った。

彼の愛す彼の、本来の相手が
ようやく群れをなし追ってくる。


だが、器用な彼は、逃げてきた間には
そんな事、予測がついていた。

というか、愛が狂う前からの計画だった。

今考えると、彼はその時から狂っていたのである。


車を出し、さらに遠くへと走る。


彼は、信用を知ったのだ。



彼は、愛しい彼だけを信じる、

そう、心に決めたのだから。



彼は、愛する人の意思など関係なく、
この環境自体が、
彼を自分のものにしたようで嬉しかった。

独占欲を掻き立てられるくらいには、
彼は彼の虜になっていたのである。


後悔など、考えることすらなかった。

彼は、隣の彼のいない世界など、
無価値に思えていたのだから。

呪いにかかり、
手玉に取られていることなど知らず、
ただ自分の意思ではあるが、
彼は、愛しい彼の全てを手に入れた気分だった。


彼を、宝物として扱った。
他の者と同じように、

むしろ、他の者より酷く、モノ扱いをした。


全て手に入れた、と、彼は安堵した。


車から降りると、
閑散とした空き地が広がっていた。

少し前から、彼が調べていた土地だった。
しげ
は、な、なんで、?あいつ、が、

彼の前には、立ちはだかる許嫁。

付けられているなどと少しも感じなかった。

独り占めした優越感から、
周りなどまるで見えていなかったのである。
淳太
照史さん、そ、それ…!
瞬間、銃声が響き渡った。

彼は、身を捧ぐつもりの相手に看取られ、
永遠の眠りについたのだ。














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彼は、結ばれる運命の人を勝手に作られた。

お互いの親による政略結婚の婚約者だった彼に、

一緒にいる度、恋に落ちてしまったのだ。


彼に呪いの噂があることなど知っていた。

だが、少なくとも、
好きであることに変わりはなかった。


彼のことが好きになってしまった彼は、
未だ顔もあやふやな状態の
相手の部下に連れ去られた。

だが、これは戦略だった。

都合がよく殺せるからだ。
少し嫉妬させると、すぐに操られた。


だが。急に彼の知らない
ノーマークの相手が現れたのだ。

急な事で、愛する人に
犯罪の過程を見られてしまった。

だが、彼はようやく安堵した。


彼は、この時心に決めたのだ。
照史
この話は 、俺らがいる限り永遠に終わらない 。
終わらせるしか道はない 。
と。


彼は、悟っていた。



愛する彼が生きている限り、
永遠に自分たちの邪魔をする刺客が現れることを。



空き地から車で抜け出してきた。

最期になる可能性を信じていた彼は、
最期に見合う、
相応しい場所へと彼を連れていった。

家もそこまで無いガラリとした住宅街、
見知らぬ廃屋に2人。

不安げな瞳は、しっかりと彼を見据えていて、
彼はその瞳だけが救いだった。


時間の経過。

彼は、自分の人生の意義を愛しい彼といる事だと、
信じて疑わなかった。


自分を変えてくれた彼を、大切にしたいのだろう。

彼は現時点で、心配はしていなかった。

むしろ、心配などするな、と語りかけた。

自分の道を進まなくてはいけないのに、
彼は自覚するのが遅れてしまった。

もう止められるものなどない、
そう彼は悟ると、
むしろ止めたくなくなってしまったようだ。

輝くと約束された未来でさえ、
独占したいと彼は思った。


1度きりのキス。

刹那でも、彼には永遠に脳内に残るものだった。

物語が終わっても、語り継がれる。
永遠に消えないことを、彼は期待していた。


時が止まって欲しい、なんて思うなんて、
彼には初めての出来事だった。


エンジン音が近づいてきた。

それが、自分らを看取るものだ、
としか思えなかった。

彼は、愛する人の為だとはいえ、
罪を冒したことに変わりはなかった。

安息は長くは続かないことなど知っていた。

彼は、美しい愛する人に傷1つつけたくなかった。

美しい姿のまま、永遠に。
自分のそばにいて欲しかった。

彼は、何が何だか分からなかった。

同意を求めるように首を傾げると、
優しく微笑み、静かに頷かれたのだ。

それは、一方的な解釈で、
そうして欲しかっただけかもしれないが。

彼は、彼を自らの手で絞め殺した。

実際、狂った愛を向けられて、
殺したいほどに愛されることに喜びを感じていた。

もう、彼に孤独という文字は
似合わなくなっていた。

幻影の敵が見えるほど狂っていた彼は、
恋敵を殺めた銃で自らの頭を撃ち抜いた。

償いのつもりなど一切なかった、
死後の世界で、愛する人と会えるなどと、
信じていたのだった。

後悔なんて、彼には残っていなかった。











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1日もしない頃 、

2人がまとめて息絶えているところを

発見された 。






同性婚が普通だといっても 、

人々は彼らが狂った愛によって
命を断ったことなど考えなかったそうだ 。





呪いの存在はただの噂話として処理され 、
空室の増えた豪邸だけが残った 。










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月日が経ち 、

本当の話かも分からなくなっていた頃 。



噂話も脚色を重ね 、


シェイクス〇アの不朽の名作として 、

何度も映画化され 、その話は愛された 。





残酷で愛憎表現の多い話だが 、


中学校の教科書には 、定番になった 。











しげ
なぁなぁ先生 、これおかしない ?
純粋な生徒には 、
こんな狂愛めいたこと分からないのだろう 、



やっぱ 、

まだ 、中学生にはシェイクス〇アは早いて 。


と 、なにか引っかかることがありそうな少年に

教師は軽く聞き返す 。
淳太
何がおかしいん 、?
少年は文章を指さす 。




2人が互いの為 命を落とし 、


自殺 、心中は良くない 。


という教訓も含め 、
多少原作より明るめにしてある場面 。
しげ
やっておかしいやん 、
しげ
2人は心中したんやから 、2人だけであの世で暮らしてるはずや 。
きっと 、誰よりも幸せな新婚生活やなぁ 、悪いことやない 。



しげ
なっ 、先生 ?







にこにこと笑う少年 。



よかったやん 、楽しく暮らせてたらええなぁ 。

なんて呟きながら 。






愛のために人を殺めた人間の殺意を
簡単に読み解いたとも見られる彼の言葉に 、



教師は何も答えてやることが出来なかった 。







名も知られていない少年の目には 、


あの日の彼らしさが少し残っていた 。






















end
























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