「卒業証書授与」
教頭先生のその言葉で始まる卒業証書授与
長くほとんどの生徒が欠伸を噛み締める場だが
私はきちんと目に焼き付ける。
「華宮 悠里」
担任に名前を呼ばれ「はい」と返事をして
証書を取る。
そのたかが普通の仕草でも華宮先輩だと違って見える。
そして在校生の送歌が始まるとやっぱり予想通り涙が止まらなくなる。
卒業式は一通り終わった。
あとはお見送り。
在校生が卒業生の通る道を作りそれぞれ
お別れする。
だけど私はそれに参加しなかった。
賑やかな声が下から聞こえてくるが
私は1人誰も居ない屋上に来る。
想いを伝えない。
そう決めたはずなのにやっぱり無理っぽかった。
スーと息を吸い、きっと最後になるであろう
華宮先輩への気持ちを空に届かせる。
初めての過去形。
だけど私の口は1度放った想いを出さずにはいられないみたいだった。
華宮先輩は私に近づいてくる。
今度はしっかり私の想いを聞いてくれる。
この日に言おうと決めてたんだよと付け足す華宮先輩。
え…じゃあ…
私は驚きと嬉しさで華宮先輩の名前を呼ぶことしかできなかった。
まるで夢のようだった。
だけどそれが夢ではないと教えてくれたのは
まだ3月の肌寒い風と華宮先輩の笑顔だった
始めて名前で呼んでくれた…
というか知ってたんですね。
久しぶりだな…
こんなに緊張して告白するなんて…
諦めかけてたこの想い。
実ることは出来ないと勝手に決めつけてた。
だけど、人生何が起こるかなんて分からない。
__私は100回目の想いを華宮先輩に伝えた__
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。