今日は、友達2人と一緒にいつもより1本早い電車に乗っている。
佳奈子が興奮気味に指を差したのは、同じ学校の制服を着ている背の高い男子だった。
切れ長の鋭い目が印象的な強面だが、顔立ちは整っていて、窓の外に向けられたアンニュイな表情がそれをさらに引き立てている。
千月は芝居がかった様子でYシャツの胸元をわし掴み、私にもたれかかってくる。
だけど、私は咄嗟にうれしそうな笑顔を作り、思ってもいないことを口にした。
2人は私の言葉に乗って喜んでくれる。
本音を言っても、良い事は1つもない。
他人同士が理解し合うなんて、ありえないのだから。
私は不仲な両親を見続けてそう学んだ。
キラキラした目で周防先輩を見つめる2人はかわいいと思う。
趣味は悪いけど……。
みんなで「うんうん」とうなずいていると、駅に着いてドアが開く。
周防先輩は足の間に置いていたかばんを持ち、足早に電車を降りていった。
私たちは何も言わず当たり前のように周防先輩の後を追いかけ、学校までの通学路を歩いていく。
不意に周防先輩の前に立ちはだかったのは、制服を着崩し、ワックスで金色の髪を立たせた不良だった。
しかし、彼は足を止めることなく、その不良の横を通り過ぎて行ってしまう。
私たちも少し離れて通り過ぎようとした時、不良と目が合う。
不良は眉間にしわをよせ、睨み付けながら距離を詰めてくる。
その圧に怯えた佳奈子と千月の足は止まってしまい、私はかばうように2人の前に立って不良と対峙した。
握りつぶされてしまいそうな力で腕を掴み上げられ、私が抵抗もできずに顔を歪めていると。
その声と共に私の腕は放される。
いつの間にか私の隣には周防先輩が立っていて、不良の手を捻り上げていた。
背の高い彼は屈んで不良の顔を覗き込む。
ローテンションで落ち着いた口調だけど、その瞳は獲物を睨みつけるようにギラついていた。
不良にさっきまでの威勢はなく、周防先輩が手を放せば、すぐに走り去っていく。
2人は私の後ろから出てきて、キラキラとした目で彼を見つめる。
彼はぼーっとした目を友達2人に向けると、最後に私で視線を止めた。
それだけ言い捨てると、こちらに背を向けた周防先輩は一度も振り返ることなく行ってしまう。
一瞬、張り付けていた笑顔がはがれ、私はその後姿に目を見張った。
私たちはさっきよりも距離をおき、周防先輩の後を追うように通学路を歩いていく。
お礼を言おうとしただけで、なぜあんな風に拒絶されないといけないのか。
モヤモヤとした不満を抱えながら、前を歩く周防先輩を盗み見ていると、こちらを振り返った彼と視線が重なる。
何を考えているのかは全くわからない。
だけど、どこかこちらの様子うかがっているような、そんな瞳をしていた。
すぐに前を向いてしまったので、私は再びその後姿を見つめ続ける。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。