空き教室でぼーっと座り込んでいた私は、差し込んできた夕日を見て諦め、ふらふらと立ち上がる。
ここで実幸先輩を待っていても来ることはない。
昇降口を出て駐車場に向かうと、そこにはもうお母さんの車はなかった。
1人で帰ろうと校門を見ると、制服を着崩したガラの悪い男子たちが群がっていた。
スマートフォンをいじりながら何食わぬ顔で通り過ぎようとするが、その内の1人にいきなり肩を掴まれてしまう。
そう声をかけてきたのは、初めて実幸先輩が助けてくれた時にいたあの金髪の不良だった。
いやらしい笑みを浮かべたそいつらを睨みつければ、その笑みは一層濃くなる。
持っているスマートフォンで録音アプリをひそかに起動させ、私はそれをポケットにしまう。
私は彼らに大人しくついていき、日が沈んでいく中、実幸先輩の顔を思い浮かべた。
人通りの少ない空き地に連れてこられた私は、両手を縛られて地面に転がされていた。
不良達は校門で見た時よりも増えていて、ざっと10人は超えている。
大笑いする不良達にいら立ちがつのり、私は声を張り上げる。
そいつは身動きの取れない私を蹴ろうと足を後ろに引いた。
だけど、私が恐怖を感じることはなかった。
不良の背後に現れた、彼に気付いてしまったから。
彼の回し蹴りがわき腹に入った不良が目の前に倒れ込んだ。
それを軽々と持ち上げて投げ飛ばし、実幸先輩は私の体を支えて起き上がらせてくれる。
私の手首の縄をほどくと、彼は周りを囲む不良達を見回す。
素早く立ち上がって構えたとたん、3人が同時に殴りかかってくる。
実幸先輩なら大丈夫。そう思っていたのに、彼は避けることなく彼らの拳を受けてしまう。
あわてて立ち上がって先輩から離れるようとすると、後ろにいた不良に腕を回され、また捕まってしまった。
それを見た実幸先輩はまたいくつもの蹴りやパンチをくらい、ひざをついてしまう。
心の中に詰まっていた気持ちがすっと消えていく感覚と一緒に、目から涙があふれていた。
視界がぼやける中、実幸先輩は諦めることなく、大勢を相手に戦っている。
本当はケンカなんて好きじゃないのに。
面倒くさがり屋で、平和主義で、……優しい人。
ちゃんと気持ちが届くように精一杯叫ぶと、彼は私に視線を向けてニッと笑みを浮かべる。
私が涙を流しながら微笑み返せば、彼はまた視線を戻し、不良達を倒していく。
私を捕まえている人はそれを焦った様子で眺めていた。
その隙に回されている腕に勢いよく噛みつく。
短い悲鳴と共に解放され、私は持ち上げた自分のスクールバッグを勢いよく振り回した。
実幸先輩のおかげで私の行く手を阻むのは1人だけだった。
その不良に向かってバッグを投げつけると、油断していたその人は顔面に直撃を受け、そのまま倒れてしまう。
声をかけて走り出すと、彼もうなずいて私の後を追ってくる。
追ってくる不良達をまいて大通りに出ると、彼は大笑いして私を抱きしめた。
俯き気味に苦笑すると、実幸先輩はいつものように優しく頭をなでてくれる。
私は彼の顔を見上げて、自信に満ちた笑みを浮かべてみせた。
それを聞いた実幸先輩は、安心したように穏やかな笑みを浮かべる。
いつでも私を助けてくれる彼に、やっとお礼を言えた。
あとは、これですべてに決着をつけるだけ。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。