……その日は、とても綺麗な星空が広がる夜だった。
璃那は、部屋の窓からその星空を眺めていた。
……極めて、無関心そうな顔で。
不機嫌そうにそう言う璃那の頭を、白夜は宥めるように撫でた。
そして璃那は、侑乃が作って持ってきてくれたプリンを1口食べた。
璃那からしたら少し甘さ控えめのプリン。璃那は白夜に向かって、「…食べる?」と聞くが、白夜は「死ぬほど甘ったるいからやだ〜」と言って笑った。
「じゃ、俺部屋戻るから、なんかあったら呼んでな〜」と言いながら、白夜は部屋を出た。
璃那は大きくため息をついた。
特に意味がある訳でもないが、こうしていると頭痛が少し楽になる気がするからだった。
その言葉を聞いて璃那は思い出す。
そういえば、そんなことを言ったような気もしなくもない…と。
そういいながらアラが棚の引き出しから出したのは、綺麗ではあるが使い古されたチェス盤。
璃那はそれを見て「あぁ、まぁね。」と呟いた。
その言葉を聞いて、アラは「え、」という顔をしていた。
それもそのはず、アラや華風は、チェスで璃那に勝ったことがなかったのだ。
思い出すだけでも嫌気がさすプレーだった、と璃那は付け加えるように言った。でも、その表情はなんだか嬉しそうで。
表情と言葉が一致しない璃那をアラは見て、「こいつ、アリスのこと大好きやな……」と改めて思っていた。
と言いながらもアラはそのチェス盤を直し、新しいチェス盤を取りに向かった。
違う棚から出したチェス盤を持って、アラは璃那の元に向かう。
璃那が座っている椅子の前にある小さなテーブルにチェス盤を置き、アラは璃那の向かい側に座った。
アラは白の、璃那は黒の駒を並べて、プレーを始めた。
璃那は「いつでもどうぞ」と笑って、チェス盤を見ていた。
アラは、駒を動かしながら璃那に話しかけた。
アラと璃那は駒を動かしながらそんな話をしていた。
その言葉を聞いた時、璃那の動きは、駒を手に持ったまま止まった。
まるで、「そんなこと考えたこともなかった」とでも言いたげな顔をして。
そして璃那は駒を動かす。その駒は、まるでアラに”取らせよう”としているようだった。……いわゆる、捨て駒と言うやつだった。
そう言って璃那が指さしたのは、先程自分が置いた駒…捨て駒だった。
璃那は嬉しそうに笑ってそう言った。頭痛のことも忘れているかのようだった。
璃那は、少し呆れたような表情をしたままアラに尋ねた。するとアラは、にっこりと笑った。
冗談のようにそう言うアラを見ながら威圧するようにそういう璃那。アラは笑いながらすぐに謝った。
アラは、納得したかのように頷くと、だいぶ進んでしまったチェス盤を見た。
どちらかが押されている様子もなく進んでいるそのチェス盤だが、アラからしたら相当な危機的状況だった。
璃那は、”この状況”なら簡単にひっくり返してくる。最初でこちらが押すくらいの勢いでなければ、確実に勝てない。
何度も璃那とチェスをしたことがあるアラは、必死に脳を回していた。
そして、もはや勝負を投げた様子で、仕方なく駒を動かす。
……恐らく、たった一駒で、ひっくり返される。
煽るように言う璃那に、アラはため息をついて、「もうやめる」と机に突っ伏した。
璃那はアラを見ながら駒とチェス盤を片付け始めていた。
璃那はチェス盤と駒を持って立ち上がり、嬉しそうに一言言った。
そして、チェス盤を片付けた璃那を見ながらアラは立ち上がり、「んじゃ、俺はそろそろ戻るわ」、と言った。璃那はそれを見送って、部屋の電気を消す。
月明かりで照らされた部屋の中では、璃那が悪魔のような笑みを浮かべていたのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。