第14話

星空の下の屋敷にて
47
2021/09/12 12:42
……その日は、とても綺麗な星空が広がる夜だった。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
………。
璃那は、部屋の窓からその星空を眺めていた。
……極めて、無関心そうな顔で。
来栖 白夜
来栖 白夜
リーナぁ…?ほんとに大丈夫…?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……頭、痛い
来栖 白夜
来栖 白夜
あぁ、ストレスのせいでねぇ……
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……そうやな
不機嫌そうにそう言う璃那の頭を、白夜は宥めるように撫でた。
そして璃那は、侑乃が作って持ってきてくれたプリンを1口食べた。
璃那からしたら少し甘さ控えめのプリン。璃那は白夜に向かって、「…食べる?」と聞くが、白夜は「死ぬほど甘ったるいからやだ〜」と言って笑った。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……頭痛薬ってないの?
来栖 白夜
来栖 白夜
あるけどついさっき飲んだばっかりやろ?まだ駄目やで
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
…頭痛いのに…
来栖 白夜
来栖 白夜
ま、薬でどうにかできる問題やないからな〜
「じゃ、俺部屋戻るから、なんかあったら呼んでな〜」と言いながら、白夜は部屋を出た。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……はぁ〜…
璃那は大きくため息をついた。
特に意味がある訳でもないが、こうしていると頭痛が少し楽になる気がするからだった。
八雲 アラ
八雲 アラ
リーナ?大丈夫?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
…あぁ、大丈夫よ?
意外と元気
八雲 アラ
八雲 アラ
ならよかった、はよ落ち着くとええな、その頭痛
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
せやなぁ……
で、なんで来たんや?
八雲 アラ
八雲 アラ
絶対忘れとると思った。
チェス、やるって約束したやん
その言葉を聞いて璃那は思い出す。
そういえば、そんなことを言ったような気もしなくもない…と。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……じゃ、そっからチェス盤出して
んでここに並べて
八雲 アラ
八雲 アラ
そんくらい自分でやればいいのに……
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
ん?
八雲 アラ
八雲 アラ
っていうのは冗談でぇ…
……これか、ずいぶん使い古したやつやな、綺麗やけど
そういいながらアラが棚の引き出しから出したのは、綺麗ではあるが使い古されたチェス盤。
璃那はそれを見て「あぁ、まぁね。」と呟いた。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
それ、アリスと一緒にチェスやってた時から使ってるやつやもん。
練習にも使ってたし
八雲 アラ
八雲 アラ
リーナでも練習とかするんやな
アリスって強かったん?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……強かったよ、1回も勝てなかった
その言葉を聞いて、アラは「え、」という顔をしていた。
それもそのはず、アラや華風は、チェスで璃那に勝ったことがなかったのだ。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
手加減すんなって言ったのは俺やけどさ。
ほんッッッッと、意地悪な攻め方してくんの、裏の裏まで見越してきて
思い出すだけでも嫌気がさすプレーだった、と璃那は付け加えるように言った。でも、その表情はなんだか嬉しそうで。
表情と言葉が一致しない璃那をアラは見て、「こいつ、アリスのこと大好きやな……」と改めて思っていた。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
あ、それが嫌なら、あっちの棚に新しい綺麗なチェス盤あるけど。
どうする?俺、アラが今持っとるそのチェス盤なら、絶対に負けへんよ?
八雲 アラ
八雲 アラ
とか言いつつ絶対新しいやつでも勝つくせに…
あの意地悪な戦い方はアリスから受け継いだやつなんやなぁ……
と言いながらもアラはそのチェス盤を直し、新しいチェス盤を取りに向かった。
違う棚から出したチェス盤を持って、アラは璃那の元に向かう。
璃那が座っている椅子の前にある小さなテーブルにチェス盤を置き、アラは璃那の向かい側に座った。
アラは白の、璃那は黒の駒を並べて、プレーを始めた。
璃那は「いつでもどうぞ」と笑って、チェス盤を見ていた。

アラは、駒を動かしながら璃那に話しかけた。
八雲 アラ
八雲 アラ
……ちょっと、遊びすぎやないの
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
えぇ?なんのこと?
八雲 アラ
八雲 アラ
…あいつらのこと。氷音とか言ったっけ
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
あぁ……
アラと璃那は駒を動かしながらそんな話をしていた。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
アラもユーノみたいなこと言いよんなぁ…
別にええやん?楽しいし、時間はいくらでも…
八雲 アラ
八雲 アラ
確かに楽しいし、俺らに時間は沢山あるよ
でも、あいつらには時間に限りがある
その言葉を聞いた時、璃那の動きは、駒を手に持ったまま止まった。
まるで、「そんなこと考えたこともなかった」とでも言いたげな顔をして。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……そうやな
そして璃那は駒を動かす。その駒は、まるでアラに”取らせよう”としているようだった。……いわゆる、捨て駒と言うやつだった。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……ま、こっちには”これ”がいるから
そう言って璃那が指さしたのは、先程自分が置いた駒…捨て駒だった。
八雲 アラ
八雲 アラ
……あれ、すごい従順やったで?そんなに手こずらんで済んだ
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
そぉ……じゃ、次に子猫ちゃんたちが来た時には使えるってことね
璃那は嬉しそうに笑ってそう言った。頭痛のことも忘れているかのようだった。
八雲 アラ
八雲 アラ
あ、そうだ。
芽衣があの情報屋に情報を貰ったらしいよ?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
…はぁ…今回は何が代償だって?
璃那は、少し呆れたような表情をしたままアラに尋ねた。するとアラは、にっこりと笑った。
八雲 アラ
八雲 アラ
リーナの目♡
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
嘘は程々にしような、アラぁ……?
冗談のようにそう言うアラを見ながら威圧するようにそういう璃那。アラは笑いながらすぐに謝った。
八雲 アラ
八雲 アラ
ごめんって、いつも通り芽衣が立て替えておいたって言ってたで。確か髪……やったかな
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
本当は俺の髪が欲しかったんやろな、あの情報屋…
まぁ、芽衣には感謝やな
八雲 アラ
八雲 アラ
リーナ、髪、大切にしとるもんなぁ
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……まぁ、お母様に似た髪色と、お父様に似た直毛やからな
アラは、納得したかのように頷くと、だいぶ進んでしまったチェス盤を見た。
どちらかが押されている様子もなく進んでいるそのチェス盤だが、アラからしたら相当な危機的状況だった。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……どうしたんや?はよ次やってや
八雲 アラ
八雲 アラ
今考えてんねん…ちょっと待ってや
璃那は、”この状況”なら簡単にひっくり返してくる。最初でこちらが押すくらいの勢いでなければ、確実に勝てない。
何度も璃那とチェスをしたことがあるアラは、必死に脳を回していた。
そして、もはや勝負を投げた様子で、仕方なく駒を動かす。

……恐らく、たった一駒で、ひっくり返される。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
へぇ…勝負を諦めたな?
八雲 アラ
八雲 アラ
この状況やと勝てんやろ、リーナには。
もうやめる
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
拗ねんといてやぁ……
ま、いいや、ほい。チェックメイト。
八雲 アラ
八雲 アラ
……えッッ?!1発!?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
ふふん、俺の思考を見誤ったな?馬鹿め‪、俺なら1発でチェックメイトを狙いに行くよ、もちろん。
煽るように言う璃那に、アラはため息をついて、「もうやめる」と机に突っ伏した。
璃那はアラを見ながら駒とチェス盤を片付け始めていた。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……明日かな
八雲 アラ
八雲 アラ
ん?何が?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……明日、子猫ちゃんたちが来る
八雲 アラ
八雲 アラ
……それは、勘?それとも理想?
璃那はチェス盤と駒を持って立ち上がり、嬉しそうに一言言った。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……もちろん、勘や。
八雲 アラ
八雲 アラ
……なら、間違いないんやな。
明日ね、あいつらにも言っとく
そして、チェス盤を片付けた璃那を見ながらアラは立ち上がり、「んじゃ、俺はそろそろ戻るわ」、と言った。璃那はそれを見送って、部屋の電気を消す。
月明かりで照らされた部屋の中では、璃那が悪魔のような笑みを浮かべていたのだった。

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