─────カキンッッ、ヒュンッッ
狐目屋敷の目の前。
そこでは今、”先祖”と”子孫”の戦いが起こっていた。
……しかし、片や普通の人間、片や100年以上生きた不老不死の化け物。
歯が立たないのは分かりきっていたことだった。
時雨は必死に追い付こうと…侑乃に傷をつけようとするが、すぐに払いのけられ、切られそうになる。
1度切られても死ななければいい。だが、切られるのは痛い。
できる限り傷つきたくない。両親に怒られるのが、目に見えるからだった。
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─────パシンッッ!!
……傷をつけるだけで、母親に叩かれる。
……傷があるだけなのに、父親には家を追い出される。
……傷があると、両親は自分に冷たく接した。
傷があるだけで、両親は自分を嫌った。
…………何故?
…そうか。傷は……
……汚れているっていう、証拠だからか。
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時雨は、近づいてきた侑乃の手から、包丁を弾き落とした。
突然のことに、油断していた侑乃は、包丁を手から落としてしまった。
侑乃は、見てしまった。
横から振りかざされる包丁を。
……侑乃は、笑っていた。
笑って、腕で時雨の手を止めていた。
傷つくことも無く、なんなら、「全て想定内」とでも言うかのような表情で。
そして、一言そう言ったのだ。
そして包丁の刃を掴み、奪い取って地面へと放り投げた。
侑乃の手からは、血が流れていた。
そういうと侑乃は、血がだらだらと流れる手を時雨に見せた。
侑乃は少し高い女性の声で、話すのをやめた。
これっぽっちも思っていなさそうな声で芽衣はそう言うと、侑乃の方を向いて、
侑乃は芽衣の言葉に返事をすると、時雨の方を向いて、一言こう言った。
そして、血が滴り落ちる右手をひらひらと振って、屋敷へと戻って行った。
芽衣は冷めた声でそう言うと、目を開いた。
薄い水色の目が、氷音たちを見ていた。
氷のように冷たく、海のように深い何かを秘めたその目。その奥には、氷音達には考えもつかないような”何か”が隠されているように見えた。
芽衣はそう言うと「だから早くお帰りください。」とだけ言って、屋敷へと戻って行った。
未来は何か言いかけていたが、氷音達はそれを気にせず、仕方がないからと帰って行った。
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璃那の部屋で、璃那と華風は、違うスイーツを食べながら窓から帰る氷音たちを見ていた。
……否、スイーツを食べながら、というより…”チェスをしながら”、の方が正しいかもしれない。
楽しそうにアリスとの思い出を語る璃那。華風は、口にこそ出さないものの「…アリスちゃんとの話をしてる時が、リーナは1番楽しそうよな」と、思っていた。
そして2人は、再びチェスを始めたのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。