第13話

彼方家の血筋
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2021/08/29 21:58
─────カキンッッ、ヒュンッッ

狐目屋敷の目の前。
そこでは今、”先祖”と”子孫”の戦いが起こっていた。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
おい、時雨?
お前の全力はそんなもんか?
彼方 時雨
彼方 時雨
〜〜〜…ッッ!!
これでもッ!!全力でッ!!やってんのッッ!!!
……しかし、片や普通の人間、片や100年以上生きた不老不死の化け物。

歯が立たないのは分かりきっていたことだった。
時雨は必死に追い付こうと…侑乃に傷をつけようとするが、すぐに払いのけられ、切られそうになる。

1度切られても死ななければいい。だが、切られるのは痛い。
できる限り傷つきたくない。両親に怒られるのが、目に見えるからだった。
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母親
母親
時雨?何してるの?
時雨
ッッ…お、おかあ、さん……
母親
母親
……なに?その傷…
時雨
転んじゃって、すりむいたの…
母親
母親
……何してるの、傷を作ってくるなんて!!
─────パシンッッ!!
時雨
いッッ…!!
時雨
ご、ごめんなさい……!!ごめんなさいぃ……ッッ!!
……傷をつけるだけで、母親に叩かれる。
父親
父親
…ふざけるな、お前の体に傷がついているのなら、家には入れない
時雨
え、なん、で……
父親
父親
汚れているからだ、治るまでベランダにいなさい
時雨
ぅ……はい…
……傷があるだけなのに、父親には家を追い出される。
……傷があると、両親は自分に冷たく接した。
傷があるだけで、両親は自分を嫌った。
…………何故?
彼方 時雨
彼方 時雨
……あ、そっか。
…そうか。傷は……

……汚れているっていう、証拠だからか。
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彼方 時雨
彼方 時雨
……は、はは……ッッ‪w‪w
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……時雨?
彼方 時雨
彼方 時雨
……ごめんなさい、侑乃さん
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……はぁ?
彼方 時雨
彼方 時雨
……俺、どうしても、傷つく訳にはいかないの
時雨は、近づいてきた侑乃の手から、包丁を弾き落とした。
突然のことに、油断していた侑乃は、包丁を手から落としてしまった。
彼方 時雨
彼方 時雨
…だから……ごめんなさい
侑乃は、見てしまった。
横から振りかざされる包丁を。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……へぇ、おもろいなぁ、お前
……侑乃は、笑っていた。

笑って、腕で時雨の手を止めていた。
傷つくことも無く、なんなら、「全て想定内」とでも言うかのような表情で。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……”お前も”か…
そして、一言そう言ったのだ。
彼方 時雨
彼方 時雨
……は…?
彼方 侑乃
彼方 侑乃
傷付いたら怒られるんやろ、俺もそうやったわ
そして包丁の刃を掴み、奪い取って地面へと放り投げた。

侑乃の手からは、血が流れていた。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
彼方家の子供だから、傷ついちゃいけないとかやろ、俺も彼方の人間やから知ってんで
そういうと侑乃は、血がだらだらと流れる手を時雨に見せた。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……だって、この血は─────
???
侑乃さん、そこまでです。
侑乃は少し高い女性の声で、話すのをやめた。
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
…少々、お喋りが過ぎるかと
彼方 侑乃
彼方 侑乃
あぁ……言っちゃダメって言われてたな、そういや……
黄蘗 氷音
黄蘗 氷音
……黄蘗…芽衣……!!
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
おや、名前を覚えてくださったのですね、嬉しい限りです
これっぽっちも思っていなさそうな声で芽衣はそう言うと、侑乃の方を向いて、
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
璃那さんがお呼びでしたよ、侑乃さん。
彼らの相手はまた今度にしろ、との事でした
彼方 侑乃
彼方 侑乃
ん。わかった
侑乃は芽衣の言葉に返事をすると、時雨の方を向いて、一言こう言った。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……今日は、お前の勝ち。
また今度やろうな
そして、血が滴り落ちる右手をひらひらと振って、屋敷へと戻って行った。
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
……ところで、いつまでいらっしゃるおつもりで?
来栖 梓
来栖 梓
……はぁ…?
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
侑乃さんから聞きませんでしたか?
「狐目屋敷には入れない」と
蓬莱 奏珠
蓬莱 奏珠
聞いたけど…戦うとか言ってたから……
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
そうですね。しかしそれはもう終わりました。
もうよろしいでしょう?お帰りくださいませ
芽衣は冷めた声でそう言うと、目を開いた。
薄い水色の目が、氷音たちを見ていた。
氷のように冷たく、海のように深い何かを秘めたその目。その奥には、氷音達には考えもつかないような”何か”が隠されているように見えた。
黄蘗 芽衣
黄蘗 芽衣
…僕は、あなたがたを傷付けたい訳ではございません。
むしろ…傷付けたく、ないのです。
芽衣はそう言うと「だから早くお帰りください。」とだけ言って、屋敷へと戻って行った。
八雲 未来
八雲 未来
……?あの人、今…
未来は何か言いかけていたが、氷音達はそれを気にせず、仕方がないからと帰って行った。
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蓬莱 華風
蓬莱 華風
……まだ、あいつらを招かへんの?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
今、招いたって、あいつらはすぐに尻尾巻いて逃げてくやろ
蓬莱 華風
蓬莱 華風
うわぁ、その様子がすごい目に浮かぶわぁ‪w
璃那の部屋で、璃那と華風は、違うスイーツを食べながら窓から帰る氷音たちを見ていた。

……否、スイーツを食べながら、というより…”チェスをしながら”、の方が正しいかもしれない。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……ほい。チェックメイト
蓬莱 華風
蓬莱 華風
えぇ〜……?また負けたぁ……
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
そりゃあ、何年もアリスとやってきたし
蓬莱 華風
蓬莱 華風
でも、アリスちゃんにはリーナも勝てんのやろ?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
そーそー。あいつ、ほんっと強いんやで
未だに1回も勝てたことない…
楽しそうにアリスとの思い出を語る璃那。華風は、口にこそ出さないものの「…アリスちゃんとの話をしてる時が、リーナは1番楽しそうよな」と、思っていた。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……さ、どうする?まだやる?
蓬莱 華風
蓬莱 華風
おん!もっかいやる!
そして2人は、再びチェスを始めたのだった。

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