綴はそう言うと、にこにこと笑った。
綴は、真顔になって「命を貰う」と言い始めた。
その後、綴がルシエを見て、「説明して」と言うと、ルシエは、淡々と説明を始めた。
「まぁ、簡単な話でしょう?」とルシエは付け加える。信じられない、というような顔をしている氷音たちを見て、綴はこう言った。
少し腹が立つ言い方をされた氷音たちだが、確かに、自分たちが情報屋に敵うほどの情報を持っているとは思えなかった。
ルシエは、何かを取り出した。
────拳銃、だった。
───パァンッッ!!
……弾を撃ったらしい。
立ち上がっていた氷音の足元には、穴が空いていた。
……つまり、ちゃんと弾が入っているということ。
そんな会話をすると、ルシエは再び弾が入っていることを確認すると、氷音の顔に向けた。
弾の入った拳銃が、顔に向けられている。
そんな中、「帰らない」だなんて言えるわけが無い。
…相手はAI。ロボットなのだ。
帰らなければ、本当に撃つだろう。
仕方がない。という顔をしながら、5人は帰ろうとした。しかし、扉が開かない。
……なぜ?鍵がある訳でもないのに。
ガチャ、と扉から音がした。押せば簡単に扉は開き、後ろを振り返れば、ルシエは既に拳銃をしまい、綴は椅子に座ったままにこにこと微笑んでいた。
その声を聞いて、店の外に出た5人だった。
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ぶつぶつと愚痴りながら氷音達は公園のベンチに座っていた。
「またのご来店をお待ちしております」?行くわけがないだろう、と。
そんなふうに愚痴りながら、次はどうすればいいのかと考える。
奏弥のその声で、やることもなかった氷音達は、狐目屋敷に行くことになった。
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「あれ?」と言いながらアラと侑乃は窓の外を見た。すると、狐目屋敷の入口に、人影が見えた。
罰当たりな不良たちを見下ろしながら、璃那は冷たい声で言った。
何故そこまでして、綺麗な状態で氷音達を迎え入れたいのかまでは、璃那本人にしか分からないが。
アラと侑乃は、一瞬でその不良たちの元へ向かった。
そして、アラがどこかに連れ去って行き、侑乃はスプレーで落書きされた部分を洗い、ポイ捨てされたゴミを集めて。
璃那はそれを、恍惚とした表情で見つめていた。
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氷音達が屋敷を見ていると、侑乃が氷音達に近づいてきた。
しかし、いつもとは違い、氷音達を傷付けるつもりはなさそうで。
……呆れたような、安心したような、不思議な表情だった。
その言葉に対する氷音達の質問も聞かず、侑乃は一瞬でその場から消えた。
……そして少しして、戻ってきた侑乃は、少し辛そうな顔をしていた。
……聞かなくてもわかる。何かがあったのだろう。
そして侑乃は、背後に回していた手を此方に向けた。
その手には、包丁が握られていた。
日光に照らされて光る包丁。
その刃先は、時雨に向けられているように見えた。
「もちろんちゃんとお前の分もあるで?」と言って、もう一本包丁を取り出す侑乃。
それも、侑乃が持っているものと同じように光っていた。
なんとも楽しそうな顔で侑乃は言った。
表情と発言が合っていない侑乃に恐怖を覚えながら、時雨は考えた。
……自分が戦わなければ、他の奴らまで死んでしまう。
自分が相手をすれば、負けたとしても犠牲になるのは自分だけ。
…そっちの方がいいのではないか、と時雨は思い始めていた。
そして侑乃は、時雨の足元に1本の包丁を投げた。包丁は地面に刺さり、時雨はそれを拾い上げる。
随分舐められてるみたいだなと思いながら、時雨は「分かった」とだけ答えた。
侑乃は時雨を煽り、時雨は侑乃を睨み。
両者1歩も譲らない戦いが、始まったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!