第12話

AI少女と”先祖”との戦い
38
2021/08/29 20:28
茅根 綴
茅根 綴
どうされます?聞かせてもよろしいですが、対価は奪い取らせていただくことになりますよ
綴はそう言うと、にこにこと笑った。
黄蘗 氷音
黄蘗 氷音
……対価って、何を奪い取るつもりで…?
茅根 綴
茅根 綴
そうですねぇ……あなたがたの場合だと……
茅根 綴
茅根 綴
……命、とかですかね?
綴は、真顔になって「命を貰う」と言い始めた。
その後、綴がルシエを見て、「説明して」と言うと、ルシエは、淡々と説明を始めた。
ルシエ・ヒポクリシー
ルシエ・ヒポクリシー
告。発言します。
お客様は十分な情報を持った宝物も持っておらず、綴が欲しいものも持っていません。
血では足りないので、心臓や脳を頂くことになります。
「まぁ、簡単な話でしょう?」とルシエは付け加える。信じられない、というような顔をしている氷音たちを見て、綴はこう言った。
茅根 綴
茅根 綴
まぁでも、いきなり許可も取らず情報を渡して命を奪い取るよりはマシでしょう?
蓬莱 奏珠
蓬莱 奏珠
まぁ確かに、無条件に殺すよりはいいかもしれへんけど……!!
そんな条件飲めるわけがないやん……!
茅根 綴
茅根 綴
そうですか、でしたら情報はお渡しできませんね
無料タダでいいので、帰っていただきます
八雲 未来
八雲 未来
……は?でも…
茅根 綴
茅根 綴
あなた方の持っている情報なんてたかが知れている。
別にいらないんです、既に持っている情報なんて
少し腹が立つ言い方をされた氷音たちだが、確かに、自分たちが情報屋に敵うほどの情報を持っているとは思えなかった。
茅根 綴
茅根 綴
……ということでルシエ。
彼らを追い出してください
ルシエ・ヒポクリシー
ルシエ・ヒポクリシー
是。拝命しました。
ルシエ・ヒポクリシー
ルシエ・ヒポクリシー
…そういうことですので。
出て行っていただきます
ルシエは、何かを取り出した。
────拳銃、だった。
蓬莱 奏珠
蓬莱 奏珠
…ひッッ?!
───パァンッッ!!

……弾を撃ったらしい。
立ち上がっていた氷音の足元には、穴が空いていた。
……つまり、ちゃんと弾が入っているということ。
茅根 綴
茅根 綴
…ルシエ、店を壊さないで頂けますか?
元々ボロい店なんですから
ルシエ・ヒポクリシー
ルシエ・ヒポクリシー
了。善処します。
そんな会話をすると、ルシエは再び弾が入っていることを確認すると、氷音の顔に向けた。
ルシエ・ヒポクリシー
ルシエ・ヒポクリシー
問。お帰りになりますか?
弾の入った拳銃が、顔に向けられている。
そんな中、「帰らない」だなんて言えるわけが無い。

…相手はAI。ロボットなのだ。
帰らなければ、本当に撃つだろう。
黄蘗 氷音
黄蘗 氷音
……あぁ、帰るよ
仕方がない。という顔をしながら、5人は帰ろうとした。しかし、扉が開かない。

……なぜ?鍵がある訳でもないのに。
茅根 綴
茅根 綴
……あぁ!そうでした!
そこの扉、今ルシエに閉めさせてるんでした。
ルシエ、開けなさい
ルシエ・ヒポクリシー
ルシエ・ヒポクリシー
…是。鍵を開けます。
ガチャ、と扉から音がした。押せば簡単に扉は開き、後ろを振り返れば、ルシエは既に拳銃をしまい、綴は椅子に座ったままにこにこと微笑んでいた。
茅根 綴
茅根 綴
次に来た時は、本当に命、頂きますので
ルシエ・ヒポクリシー
ルシエ・ヒポクリシー
告。またのご来店をお待ちしております。
その声を聞いて、店の外に出た5人だった。
----------------------------------------------------------
来栖 梓
来栖 梓
ほんっとなんなの、あいつら!?意味わかんね!!
八雲 未来
八雲 未来
銃突きつけてくるし……鍵は閉めてたし……
彼方 時雨
彼方 時雨
まるで俺らの反応を楽しんでるみたいやったな……
ぶつぶつと愚痴りながら氷音達は公園のベンチに座っていた。

「またのご来店をお待ちしております」?行くわけがないだろう、と。
そんなふうに愚痴りながら、次はどうすればいいのかと考える。
蓬莱 奏珠
蓬莱 奏珠
……もっかい行ってみる?
狐目屋敷に
黄蘗 氷音
黄蘗 氷音
……え、狐目屋敷に?
蓬莱 奏珠
蓬莱 奏珠
うん、鬼ごっこするだけして入れなかったし……
今日行けば入れるかもしれないし
奏弥のその声で、やることもなかった氷音達は、狐目屋敷に行くことになった。
----------------------------------------------------------
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
…………。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
リーナ?なにしてんの
八雲 アラ
八雲 アラ
また甘そうなケーキ食ってんねぇ
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……いや、見て、あれ。
「あれ?」と言いながらアラと侑乃は窓の外を見た。すると、狐目屋敷の入口に、人影が見えた。
八雲 アラ
八雲 アラ
ん〜?あれって、子猫たちじゃないよな?
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
そう、知らねぇやつ
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……また随分罰当たりな奴らやな、ポイ捨てしたりスプレーで落書きしようとしてるし
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……そろそろ子猫ちゃんたちも来る
あいつらを処理して、綺麗にしておいて
罰当たりな不良たちを見下ろしながら、璃那は冷たい声で言った。
何故そこまでして、綺麗な状態で氷音達を迎え入れたいのかまでは、璃那本人にしか分からないが。
黄蘗 璃那
黄蘗 璃那
……あいつらに、制裁を与えてきて
アラ&侑乃
りょーかい。
アラと侑乃は、一瞬でその不良たちの元へ向かった。

そして、アラがどこかに連れ去って行き、侑乃はスプレーで落書きされた部分を洗い、ポイ捨てされたゴミを集めて。
璃那はそれを、恍惚とした表情で見つめていた。
----------------------------------------------------------
黄蘗 氷音
黄蘗 氷音
……なんか、すごい綺麗よな、ここって
蓬莱 奏珠
蓬莱 奏珠
確かに!
いつ来ても掃除したてみたいに綺麗よな〜
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……また璃那に会いにきたんか…
氷音達が屋敷を見ていると、侑乃が氷音達に近づいてきた。
しかし、いつもとは違い、氷音達を傷付けるつもりはなさそうで。

……呆れたような、安心したような、不思議な表情だった。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……ちょっと待ってろ、璃那に確認してくる
その言葉に対する氷音達の質問も聞かず、侑乃は一瞬でその場から消えた。
……そして少しして、戻ってきた侑乃は、少し辛そうな顔をしていた。
……聞かなくてもわかる。何かがあったのだろう。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
……あー、悪い、どうやら今日も駄目らしい
そして侑乃は、背後に回していた手を此方に向けた。
その手には、包丁が握られていた。

日光に照らされて光る包丁。

その刃先は、時雨に向けられているように見えた。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
…まぁでも、俺は優しいからさ?
そこのお前……時雨って言ったっけ?
お前が俺の相手してくれるなら他の奴には手は出さない
「もちろんちゃんとお前の分もあるで?」と言って、もう一本包丁を取り出す侑乃。
それも、侑乃が持っているものと同じように光っていた。
彼方 時雨
彼方 時雨
はぁ……?んな事するわけ……
彼方 侑乃
彼方 侑乃
なら、皆殺しやけど。
なんとも楽しそうな顔で侑乃は言った。
表情と発言が合っていない侑乃に恐怖を覚えながら、時雨は考えた。

……自分が戦わなければ、他の奴らまで死んでしまう。
自分が相手をすれば、負けたとしても犠牲になるのは自分だけ。

…そっちの方がいいのではないか、と時雨は思い始めていた。
彼方 時雨
彼方 時雨
…………わかった、相手すればいいんでしょ
彼方 侑乃
彼方 侑乃
うんうん、さすが俺の子孫。賢いな
そして侑乃は、時雨の足元に1本の包丁を投げた。包丁は地面に刺さり、時雨はそれを拾い上げる。
彼方 侑乃
彼方 侑乃
お前は、俺に1回傷をつけるだけでいい
それで今日は見逃してやるよ
彼方 時雨
彼方 時雨
……そっちは、どうしたら勝ちなの?
彼方 侑乃
彼方 侑乃
力の差もあるしなぁ、お前のことを殺せたら勝ち、かな
随分舐められてるみたいだなと思いながら、時雨は「分かった」とだけ答えた。
彼方 時雨
彼方 時雨
……傷、付けるだけでいいんだよな?
彼方 侑乃
彼方 侑乃
そーそー。かかってこいよ、全力で。
侑乃は時雨を煽り、時雨は侑乃を睨み。
両者1歩も譲らない戦いが、始まったのだった。

プリ小説オーディオドラマ