『 言っちゃった。 』
不意に口からはなたれた言葉は時に取り返しがつかなくなる時がある。
今の私はその状況の真っ只中であって、その言葉を発して数時間後になってこの言葉である。
つまり、私は人生で初めて告白というものをした。
しかもそれは
『 クラスの人気なあの子 』。
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🗣【ねぇねぇ聞いて〜、あいつ今日さ〜………】
👤【え〜笑 まじキモくない?笑】
教室の話をただひたすら1人で聞いているのも誠に面白い遊びのひとつだと思ってる。
だって、ほとんどの話の内容が思春期真っ只中であり自制心が揺らいでいる時期の男女と言えば 悪口 でしかないのだから。
今日はだれだれのこんな所が嫌だった とか あいつは調子に乗ってるよね なんて内容の。
ちなみにさっき言われてた悪口の的の人間は私であって、聞いていて気持ちいいものではないけれどなんだか聞いてるだけで自分だけが汚れてるんじゃないかっていう気持ちが拭えた気がしていいのよね。
なんで私がこんなに言われてるかって?
そりゃあそうだよ。
だって私
クラスの人気者と関係を持ってるから。
もちろん、それはとても綺麗な関係ではないの。
でもそれの何がダメなのかな。
だってあっちの任意でやってるってのに。
よく道徳ではこんなことを教えるであろう。
嫌いのうちにも好きがある と。
でもそんなの間違いだよ、いい加減気づいてよ。
大嫌いを裏返したとしてもそこに 好き なんてどこにもないんだよ。
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よく美人な子は言われるであろう一定のフレーズ
『その顔に生まれ変わりたい』
遠回しに自分の親からの遺伝を真っ向から否定していくスタイルを私はあまり好まないさ。
でも、そう思う気持ちはとても分かるんだ。
残念ながら私は見事彼に惹かれてしまい、そんで関係を持っているわけだから
学年1美人なあんたの顔に私はなりたいんだよ。
そう、あんただよ。
今そうやって何も考えてないような顔して平然とただ時間をやりくりできるようなそんなあんたの顔に私はなりたいんだよ。
ほら、今日だって聞こえてくるんだよ。
🐭「お前、いつ告白すんの?」
🐹「いや、僕はあの子に釣り合う人間じゃないから……」
って。
そんな勝ち目のない彼のことを好きになった私も私で悪いんだけどね。
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メールを開けば そくじん からのメッセージが届いている。
「今日空いてる?」って。
空いてるに決まってるでしょ。
私は今1人なのだから。
「好きだから」関係を無理やり繋げたってのもあるけれど、それで私は「大丈夫」なわけではなくて
そんな嘘がいつからか上手になったの。
だって、「大丈夫」だなんて恋はどこにも無いから。
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私は何故こんなにも彼を好きになってしまったのだろう。
どうせあんたから帰ってくる言葉は
🐹「もう時間だから」
なんだってことを知ってる。
だから私は 愛 という言葉を憎んでいる。
歪んだ私の思考がそうさせているのだ。
愛をたとえ私が抱いたとしても大きすぎる理想がきっと私を邪魔するであろうから。
こんな関係を私と持とうとしている彼も彼で
最低なんだろうけど。
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🦁「ねぇ、お前ってバカなの?」
そう聞いてくる彼は女癖の悪い私の唯一の幼馴染。
『なんでそんなことあんたに言われなきゃいけないの。』
なんて淡々とした口調で私はいう。
随分なれたこの口調は私にとって無理をせずにも出るような気がした。
🦁「それにしてもその男もクズだよね〜笑 普通自分の事が好きだって知ってて自分はちゃんと好きな人がいんのに体の関係を持つなんて笑」
『……あんたみたいにすぐ誰とでも遊べるようなチャラチャラしたような雰囲気はないわよ』
なんてここで そくじん のことを庇う私も相当重症のようだ。
結局、この世は歪んだ者同士で存在しているわけであり、歪んだような世の中だからこそ、今日も何も知らないような顔して世界は回っているんだ。
私だって歪んでる。
でもそれでもいいんだ。
それがきっと私の運命であり、彼の人生の中で私という存在はちょっとした 脇役 に過ぎなかったのだと、そう思えているのだから。
🦁「ねぇ、実はさずっと言いたかったことがあるんだけど」
🦁「そくじんが好きだって言ってる女、俺と危ない関係持ってるんだよね〜笑 なんて……笑」
ほらね、世の中は歪んだ事だらけ。
END.
原曲 『妄想感傷代償連盟』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。