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第1話

エスパーみたいな男の子
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2018/06/13 09:52
「あー今日もだめだったー。」

だめだったー・・・だめだっ・・・だめ・・

丘の上の公園から下界に向けて叫ぶとよく響く。はぁっとため息をひとつこぼし、私は公園のベンチに鞄を置き、静かに座った。そして、真上にある青空を見上げた。
私は、立花 美空(タチバナ ミソラ)。高校3年生になって早くも半年が過ぎました。なのに、後輩が一人も入ってこない部の部長です。私が1年生の最初に入って、部員18人だった天文部。先輩が卒業し、私と副部長の青井(アオイ)の二人だけになって廃部寸前。
 それにしても、梅雨入りしたって言うのに
「何でこんな暑いんだろう。」
ふいにスマホが気になり、鞄から取り出し・・・取り出し・・・?・・
「あー!水道場に置いてきた!」
はぁぁとため息をまたひとつ。さっきよりも大きな。青空はまるであなたらしいわねと笑うように光を放っている。私はそれに向かって手を伸ばした。
「ねぇ、なんで私ってこうなんだろう。私がいると皆離れていくんだよ。私は・・・いらない・・・?」
だんだんと視界が水のなかにいるみたいにぼやけてきた。
その時だった。
「いらなくないですよ。」
「えっ。」
座ったまま後ろをみても誰もいない。
「気のせいか。」
だが、
「お忘れものはこれですか?」
とベンチの後ろからひょこっと出てきた男の子に私は驚いて心臓が止まるかと思った。
「きゃーーーー!!」

しばらくしてもう一度後ろに立っている男の子を見た。にこっと笑う男の子の手には、私のスマホがあった。私はベンチから立ちあがりその場に向かい、スマホを受け取った。
「あ、ありがとうございます。あの・・・すみま・・せん、急に叫んでしまって。」
「いやいや、でも、でかい独り言ですね。」
思わず下を向いていたが勢いよく上がった。(聞いてたの・・・?)
声もでずに、心拍数だけがどんどん上がっていく。
「聞いてたのって顔してますよ。」
彼は笑ってそういった。続けて、
「僕、天文部入りたいんですけど。」
奇跡が起こったと思った。
「あ、あ、ありがとう‼え、きみ何年なん組?どこ中?あとは・・・」
プハッ、ハハハ
突然笑い声が聞こえた。彼が笑っている。
私の嬉しい気持ちは一気に底に落ちた。
(嘘だったの?・・・またか・・・)
以前もあった。こんなことが2度も。
「嘘じゃないよ。」
その言葉にハッと我にかえった私の心には不思議な気持ちが生まれた。それを私は彼に聞いた。
「きみって、エスパーかなんか?」
その言葉にまた彼は笑い出した。私はよく分からないまま、彼の返答を待った。
「違う、違う。先輩ってすぐ顔に出るんですもん。おかしくて。分かりやすくて。」
笑う彼の笑顔が、太陽でキラキラして私の心臓はまた心拍数をあげた。ドキドキと心臓がうるさい。私は震える口を開いて話題を戻した。
「で、何年なん組の名前は?」
「ああ、すみません。俺、1年3組 八木 雅弥(ヤギ マサヤ)です。よろしくお願いします。立花先輩!」
「よろしくってなんで私の名前・・・!?」
まさかと思ってスマホを開くと、プロフィール画面になっていた。
「立花先輩、ロックはかけといた方が良いですよ!」
そう笑った彼は少し先の公園の入り口に居た。
(生意気な後輩めー!)
「じゃそういうことで先輩また明日!」
あっ、と思いだし走り出す彼に大声で伝えた。
「明日は部活あるからね!遅れたら罰ゲームあるからね!」
「分かりました!」
そうして彼は足を進めた。私も帰ろうとした。
「先輩!さっきの罰ゲームって今作りましたよね!」
ギクッとした。
「先輩も遅れちゃだめですよー!」
「もうなんでわかるんだろ。」
私はこそっと言葉をこぼすと
「なんですかー?」
と彼の声がした。
「分かってる!」
そういうと彼は手をふって帰っていった。
帰り道、私の心はドキドキしていた。でも、なんか先輩の意地というか認めたくはなかった。これが恋だと。けど、彼はすぐ気づくか・・・。
 今日の帰り道はいつもより足が軽く、そして明日が楽しみだとも思った。

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