第27話

楓の復讐
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2026/03/23 09:00 更新
 私は全てを、思い出した。

黒猫の瞳。血の匂い。
痛みよりも先に、胸にこみ上げた悔しさと憎しみの熱。

私の死の真相も、一体誰をこんなにも憎んでいたのかも。

そのすべてを胸に私がそっと顔を上げると、静かに問われた。

焔羅
焔羅
……復讐しても、
命や大切なものは戻ってこぬ
それでも──そなたは復讐を望むか?
 その声は、どこまでも優しかった。
でも、私はもう迷わなかった。赤い瞳を見つめ返しながら、きっぱりと答えた。
楓
はい。
それでも……私は復讐します
 その言葉に、焔羅様の目がわずかに揺れた。
でも私は気づいていた。本当はずっと昔から、気づいていた。

私の側にいたあの黒猫。焔。──そして、焔羅様。

 私はそっと微笑んだ。まるで、何かが吹っ切れたかのように。

焔羅
焔羅
……そなたは気づいていたのか
私が──
楓
あの黒猫、焔だったってこと?
 焔羅様が、わずかに目を見開く。
けれど私は、微笑みを崩さなかった。

楓
ありがとう
あの頃、私の唯一の味方でいてくれて

 焔羅様は何かを言いかけたが、その言葉は喉の奥に沈んだようだった。
代わりに、しばしの沈黙の後、おそるおそる私の顔を覗き込む。

焔羅
焔羅
……私が、そなたの記憶を奪ったことは
許してくれるのか?怒っていないか?
 その声には、確かな怯えが混じっていた。
神のように強くて、誰よりも威厳ある焔羅様が、こんなにも弱々しく尋ねるなんて。

私は、少しだけ視線を落として、それからまた彼を見つめた。

楓
怒ってません。
それは私のためだったんでしょう?
それよりも、と私は言葉を続ける。
楓
今回は私の復讐です
契約書を出してください
 その言葉に、焔羅様の肩が小さく揺れた。
淡々と、何の迷いもなく契約書に判を捺す私を見て、焔羅様は悟ったようだった。

──もう、自分では止められないのだと。
焔羅
焔羅
……では。
鬼神である私が、
直々にそなたの復讐を助けよう
その言葉と共に、彼は優雅に手を差し伸べる。私は迷わずその手を取った。

そしてパッと、番傘が開かれた。
一瞬、世界が反転するような感覚に包まれたと思ったら、次の瞬間にはもう、望んだ場所に立っていた。

かつて、私が住んでいたアパートの一室。

変わらないはずのその部屋。しかしどこか薄暗く、冷え切っていた。
まるで時間が止まっているかのように。


 そして、目の前に広がる光景に、私は言葉を失った。

母が──泣いていた。

それも、ただ泣いているだけではない。
今まさに、その頬に鮫島の手が叩きつけられていた。

鮫島
鮫島
チッ、なんでこんなことで
文句言いやがる!
てめえは俺の金で
暮らしてんだろうが!
楓の母
楓の母
やめて……お願い……
叫ぶこともできない母の声は、掠れていた。
その顔にはいくつもの痣があり、痩せ細った身体は、明らかに以前とは違っていた。

かつて、私がいた頃、母には一度も手を上げなかったあの男が、今では母にすら暴力を振るっている。

楓
……っ
 知らず、拳を握りしめていた。
爪が手のひらに食い込んで、痛みをくれた。

私の死後、あの男は何も変わらなかったのだと胸が冷えていく。
焔羅
焔羅
……そなたの怒り、私が預かろう
焔羅
焔羅
だが、裁くのはそなた自身だ
愛弟子、楓よ──
その言葉に、私はゆっくりと頷いた。

手には、再びあのハサミが託された。
赤く、深く、血の色に染まった紅蜘蛛を、私は静かに見つめる。

楓
(……ここが、私の始まり。
そして終わりの場所)
 私は一歩、室内へと踏み出した。


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