第29話

母とクズ男の末路
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2026/04/06 09:00 更新
 その後、母は玄関の扉を開け、血に染まった手を隠すことなく、真っ直ぐに警官たちの前へ進み出た。

楓の母
楓の母
……私がやりました。あの男を刺しました
けれどそれだけじゃない
私には……もっと、大きな罪があります
 嗚咽を堪えながら、母はすべてを語った。
家庭内の暴力、娘への虐待の黙認、見て見ぬふりを続けてきた日々。

娘が命を落とした日のこと。あの日の、すべてを──。


 供述は記録され、母は殺人未遂の容疑で逮捕された。

捜査が進むにつれ、同棲相手による暴力の事実が明るみとなり、母は正当防衛が認められた。

だが、完全な無罪とはならず、有罪判決が下された。

楓の母
楓の母
楓…ごめんなさい…本当にごめんなさい
あなたを愛していたわ……本当なのよ
 暗く冷たい刑務所の中で、母は亡き娘の遺影に額を寄せるようにして、静かに泣いていた。

私はその様子を焔羅様の番傘の下でじっと見つめていた。


楓
お母さんは弱かったの。ただそれだけ
本当は、少しは愛してほしかった。
憎いって思うこともあった
楓
けど、お母さんはお父さんを
愛しすぎてたから、父さんに似た私を
避けてたんだ
だから私は……あなたを許します
聞こえないとわかっていても、私は静かそう言った。

その気配を感じ取ったのか、母が見えないはずの私の方へと視線を向ける。
楓の母
楓の母
楓? あなた…
そこにいるの……?
楓……!

震える手は何もつかめず、ただ空を切った。


 一方、鮫島の魂は。
焔羅様の助けもあり、私はあの男の行く末を見ることができた。

焔羅
焔羅
……あやつの魂は、
すでに地獄に堕ちて裁かれた
そなたの手を汚さずとも
業によって裁かれる運命にあったのだ
 黒き業火の底で、呻き、泣き叫ぶ男の姿。

彼が蹂躙してきた者たちの怒声が、罰として彼の身を裂いてゆく──それは、至極正当な裁きだった。


楓
……私は復讐を果たせていませんが
元々あの男の糸を切るつもりでした
それに……母も、本当の意味では
まだ許していません
焔羅
焔羅
──だが、結果的に
そなたは糸を切らなかった
焔羅
焔羅
契約上、そなたの復讐は無効となり
このまま成仏も望むことができる

 優しく告げられたその言葉に、私はかぶりを振った。

楓
……私は、逃げたくありません
許せない自分を、許す気もありません
楓
復讐を望んだこと、
そしてその心が消えない限り
……私には成仏する資格なんて
ないんです
そして、私は焔羅様の赤い瞳を見据える。
楓
……だから、焔羅様
私を、地獄へ送ってください
 風の音が聞こえた。

沈黙の中で、焔羅様の表情が揺れる。
何かを言いかけて、しかし言葉にならず、ただ私を見つめる──その紅の瞳が、悲しみを湛えていた。

 私の運命は、もう決まっている。
そして私はそれを受け入れていた。

向かう先がたとえ地獄の底であっても、背を向けず、生きなおすために。

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