その後、母は玄関の扉を開け、血に染まった手を隠すことなく、真っ直ぐに警官たちの前へ進み出た。
嗚咽を堪えながら、母はすべてを語った。
家庭内の暴力、娘への虐待の黙認、見て見ぬふりを続けてきた日々。
娘が命を落とした日のこと。あの日の、すべてを──。
供述は記録され、母は殺人未遂の容疑で逮捕された。
捜査が進むにつれ、同棲相手による暴力の事実が明るみとなり、母は正当防衛が認められた。
だが、完全な無罪とはならず、有罪判決が下された。
暗く冷たい刑務所の中で、母は亡き娘の遺影に額を寄せるようにして、静かに泣いていた。
私はその様子を焔羅様の番傘の下でじっと見つめていた。
聞こえないとわかっていても、私は静かそう言った。
その気配を感じ取ったのか、母が見えないはずの私の方へと視線を向ける。
震える手は何もつかめず、ただ空を切った。
一方、鮫島の魂は。
焔羅様の助けもあり、私はあの男の行く末を見ることができた。
黒き業火の底で、呻き、泣き叫ぶ男の姿。
彼が蹂躙してきた者たちの怒声が、罰として彼の身を裂いてゆく──それは、至極正当な裁きだった。
優しく告げられたその言葉に、私はかぶりを振った。
そして、私は焔羅様の赤い瞳を見据える。
風の音が聞こえた。
沈黙の中で、焔羅様の表情が揺れる。
何かを言いかけて、しかし言葉にならず、ただ私を見つめる──その紅の瞳が、悲しみを湛えていた。
私の運命は、もう決まっている。
そして私はそれを受け入れていた。
向かう先がたとえ地獄の底であっても、背を向けず、生きなおすために。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。