第26話

憎しみと死の真相
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2026/03/16 09:00 更新
 その夜は、まるで空までもが泣いているようだった。

雪はしんしんと降り続き、街をすべて覆い尽くすように音もなく積もっていた。
記録的な寒波で、気温は氷点下を大きく下回っていたという。

けれど私は、寒さをものともせず、ただひとつだけを想っていた。

楓
(焔、寒がっていないかな……?)
 小鍋で温めたミルクから湯気が立ちのぼるのを確認して、小さな器に移し替え、音を立てないように玄関に足を運ぶ。

家の中にいる母に気付かれないよう注意して、そっとドアを閉める。

──大丈夫。今日はあの男は家にいない。

きっとあの祠の前で焔は待ってる。
そう思いながら、白く染まった道を歩いた。

 氷のように冷えた風が肌を刺し、手足の感覚がじんじんと遠のいていく。
それでも、私の心は不思議と温かかった。

焔が、待っていてくれる。
それだけで救われるような気がしていた。

でも。

──祠に近づいた瞬間、
その胸の温もりは一瞬で凍りついた。
鮫島
鮫島
お前か……まさか
こんな畜生を可愛がってたとはな!

鮫島の足元にはぐったりと倒れた小さな黒い影。

楓
焔——————!!

血の気が引くとは、こういうことだと知った。

楓
なに……してるの……
やめてよ……っ!

 私はミルクを持ったまま駆け寄る。
焔の身体は小さく震えていて、毛並みのあちこちが濡れていた。

それが雪によるものなのか──それとも血なのか。

鮫島
鮫島
はっ!人間に懐くような
汚い猫が目障りでな
お前が隠れてこそこそ
やってたのもずっと見てたぞ
楓
この子には関係ないでしょ!?
やめて!手をあげないで!
 私は焔をかばうように身を投げ出した。
次の瞬間、鋭い平手が横から飛んできて頬を打った。

身体がよろけ、雪の上に倒れ込む。

けれど私は焔だけは守ろうと、凍える腕に力を込めてしっかりと抱きしめ続けた。

楓
(この子にだけは、絶対に……)

 そのときだった。

──ふらりと、焔が立ち上がった。

ぐらつく足取りで、祠のわきを通り抜け、細い道を進み──そして、車道へ。

楓
──焔っ!!
 白い世界の向こう、雪煙を上げて走ってくるのは、除雪用の大型トラック。
その進行方向に、よろよろと歩く焔の姿があった。

鮫島
鮫島
おい、危ねえぞ!
楓
黙ってて!!
 私は咄嗟に、男を突き飛ばすと、その
重い身体は雪に沈み込む。私はそれを振り返る暇もなく、焔の元へ駆け出した。

 焔の細い身体を胸に抱きしめた瞬間、轟音が世界を貫いた。

──ドンッ。

視界が、回る。感覚が、途切れる。
でも、温もりだけはまだ、腕の中にあった。

 胸元に、真っ赤な血が滲んでいた。
それが私のものなのか、焔のものなのか、もう分からなかった。

そのとき、心の奥底から、何かが吹き出した。

楓
(……憎い!)

震える唇が、そう形をつくった。
楓
(この世のすべてが……憎い)
(殺してやりたい)
 雪が、静かに降っていた。
その中で私は、確かに誓ったのだ。

楓
憎い──。この世の全てが憎い!
この子をこんな目に遭わせたクソ野郎も、
私をいじめたあいつらも
殺したいほど憎い──!
このまま死んでたまるか……
復讐してやる、かならず復讐して
地獄へ堕としてやる──
  

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