第30話

鬼神様の愛弟子になりまして
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2026/04/13 09:00 更新
楓
……だから、焔羅様
私を、地獄へ送ってください
 焔羅様は、私の言葉を聞いたあと、しばらく何も言わなかった。

その赤い瞳がじっと私を見つめていて、沈黙のなかにもどこか、私の心を探るような優しさが滲んでいた。

焔羅
焔羅
……それはできぬ

静かな声だった。
けれどその響きには、はっきりとした拒絶があった。

楓
どうしてですか……私は──
焔羅
焔羅
そもそも、鬼神には
契約をもって魂を導くことしか
許されていないのだ
焔羅
焔羅
契約の対象者が滅した今
そなたを地獄へと導く術は、ない
はっきりと、告げられた。
私が自ら求めた終わりも、ここでは許されない。
楓
……私は、まだあの男を憎いと思っています
こんな気持ちのまま、
成仏してもいいのでしょうか……

焔羅様は少し考え込むように、空を仰ぎ、そしてぽつりと提案した。

焔羅
焔羅
では、私からの提案だが
……このままここに残って
私の弟子を続けてみないか?
楓
え……
焔羅
焔羅
地獄に行くことはできぬが
成仏も急がずともよい
焔羅
焔羅
そなたが、自ら納得できる時まで
この屋敷で共に暮らせばよいではないか
そんなことが……許されるのだろうか。

楓
……そんな勝手なこと
許されるんですか?
焔羅
焔羅
……まぁ、なんとかなるだろう

少し目を逸らした焔羅様の曖昧な言い方に、思わず笑いそうになった。
楓
本当のことをいうと……
私は、あの大切な黒猫と
また一緒に暮らしたいです

焔羅様が一瞬きょとんとする。

焔羅
焔羅
……黒猫?
憑依していたあの猫は
命を落としてしまったが……
焔羅
焔羅
死んだ猫と共にいたいということは
やはりそなたは成仏を──
楓
違います。そうではなくて
猫に憑依していたあなたと……
また一緒に暮らしたいんです
そう言ってそっと彼の手を取ると、焔羅様の瞳が揺れた。
困惑したように、でもどこか安堵したように微笑む。

楓
もう少し、お世話になってもいいですか?
私は、あなたの愛弟子ですから
焔羅
焔羅
……ふっ
そなたというやつは……!

そのまま、焔羅様は私を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。
そして額に優しく口づけを落としてくる。

 次の瞬間、私の額に小さな角が再び生えるのがわかった。


 屋敷に戻ると、小間使いの双子が、
まるで私たちの帰りを待ち侘びていたかのように、門の前に立っていた。

朝
もう帰ってこないかと思ったわよ!
急に居なくなったら困るんだから!
夜
戻ってきて良かったです……
鬼神様も…よかったですね……!
焔羅
焔羅
ああ!

少しつっけんどんだけど、優しい言葉。そして用意されていた豪華な食卓。
それが、二人の気持ちをすべて物語っていた。

楓
……ただいま
私がそう言うと、焔羅様も心底嬉しそうに微笑んだ。

焔羅
焔羅
愛弟子の教育で、また忙しくなるな
そうだ、やはり寝所をともにしよう!
楓
どうしてですか!
焔羅
焔羅
勝手に地獄へ堕ちようとした罰だ
師匠を置いていくなど
愛弟子の風上にもおけんからな
眠る時も見張っておかねば……
楓
はいはい、もうお好きにどうぞ
焔羅
焔羅
まことか!?なら善は急げだ
朝、夜、いますぐ楓の布団を私の部屋運べ!
楓
え!ちょっと、冗談ですよ!
朝
鬼神様、いますぐに!
夜
すぐに……!

 こうして、鬼神様とその愛弟子、そして奇妙な屋敷の仲間たちの暮らしが、また始まった。

私たちの賑やかな笑い声が、屋敷に響いていた。


 ——終わり——


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