壁に掛かっている時計を眺め、呟く。
開店時間は、朝の八時。
因みに閉店時間は、夜の七時。
私は、外に出てシャッターを開ける事にした。
ガラガラガラガラ…
鈍く野太い音を立てながら、シャッターがゆっくりと開く。
ここのシャッターは何故かとても、開きにくい。
でも私は頑張って持ち上げ、1番上に上げる。
上まで上がると、ちょっとした達成感が込み上げてくる。
シャッターを上げ終わると、次に看板を立てる。
看板の向きの微調整を行う。
割と微妙なズレでも気になるタイプで、1回拘ったら長々と続けてしまう。
でも、お店をより良くするなら、こういう拘りもあっても良いんじゃないかと思う。
まぁぶっちゃけ、自分の自己満でやってるところが殆どなんだけど。
そんな考えが頭に過ぎるが、知らないフリをして微調整に集中する。
やっとの思いで、微調整が完了する。
毎朝この作業で3分くらいは時間を取ってしまう。
楽しいから良いんだけどね。
看板も月によって変えていて、オススメの品や季節の品などを、書いている。
でも文章だけじゃ寂しいから、イラストも付け加え、看板もより華やかにしている。
こういう細かい部分まで、拘っている。
腕時計で時間を確認すると、残り時間はわずか。
看板の微調整、シャッター上げなど、今日はいつもより時間が掛かってしまった。
いつもと同じことしかしていないのに、今日は寝坊したっけか?
そんなことは置いておいて、私は店内に入り、いつでも対応できるようにスタンバイをした。
八時二十五分。
未だにお客さんは誰一人と現れない。
強いて言うなら、さっき20代くらいの女性が一瞬立ち止まったが、生憎私が作業をしている時で、声をかけ損ねてしまった。
声をかけていたら、入店してくれていたかも…と思うと、数分前の自分を憎む。
カウンターにぐだぁ…と崩れ落ちる、程ではないが、だらーんと力が抜けたように体重を預ける。
お客さんの来店数が少ない私の喫茶店は、お客さんの1人や2人で随分変わる。
だから、お客さんが入りやすいように工夫したり、自分なりに考えを練ってきた。
何が悲しかったのか、心の中で思っていた事を口にしてしまった。
でも、それも事実だから何も言えないのがもっと悲しい。
カウンターに預けていた体重を起こし、普通の体制に戻る。
もっと笑顔にすべき?サービスを付ける?
などなど…考えは浮かびはするが、それを実行できるか…それが鍵となるのだ。
笑顔はまだしも、サービスってなんだ?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!