第2話

32
2020/08/13 03:00
香織
あと10分や
壁に掛かっている時計を眺め、呟く。
開店時間は、朝の八時。
因みに閉店時間は、夜の七時。

私は、外に出てシャッターを開ける事にした。




ガラガラガラガラ…
鈍く野太い音を立てながら、シャッターがゆっくりと開く。
ここのシャッターは何故かとても、開きにくい。
でも私は頑張って持ち上げ、1番上に上げる。
上まで上がると、ちょっとした達成感が込み上げてくる。
シャッターを上げ終わると、次に看板を立てる。
香織
もうちょい…こっちか
看板の向きの微調整を行う。
割と微妙なズレでも気になるタイプで、1回拘ったら長々と続けてしまう。
でも、お店をより良くするなら、こういう拘りもあっても良いんじゃないかと思う。
まぁぶっちゃけ、自分の自己満でやってるところが殆どなんだけど。
そんな考えが頭に過ぎるが、知らないフリをして微調整に集中する。
香織
………んよしっ、いい感じやん
やっとの思いで、微調整が完了する。
毎朝この作業で3分くらいは時間を取ってしまう。
楽しいから良いんだけどね。
看板も月によって変えていて、オススメの品や季節の品などを、書いている。
でも文章だけじゃ寂しいから、イラストも付け加え、看板もより華やかにしている。
こういう細かい部分まで、拘っている。
香織
うおっ、あと3分
腕時計で時間を確認すると、残り時間はわずか。
看板の微調整、シャッター上げなど、今日はいつもより時間が掛かってしまった。
いつもと同じことしかしていないのに、今日は寝坊したっけか?
そんなことは置いておいて、私は店内に入り、いつでも対応できるようにスタンバイをした。





香織
んー……
八時二十五分。
未だにお客さんは誰一人と現れない。
強いて言うなら、さっき20代くらいの女性が一瞬立ち止まったが、生憎私が作業をしている時で、声をかけ損ねてしまった。
声をかけていたら、入店してくれていたかも…と思うと、数分前の自分を憎む。
香織
何しとんねん自分……
カウンターにぐだぁ…と崩れ落ちる、程ではないが、だらーんと力が抜けたように体重を預ける。
お客さんの来店数が少ない私の喫茶店は、お客さんの1人や2人で随分変わる。
だから、お客さんが入りやすいように工夫したり、自分なりに考えを練ってきた。
香織
だか、一向に来ないという悲しい事実…
何が悲しかったのか、心の中で思っていた事を口にしてしまった。
でも、それも事実だから何も言えないのがもっと悲しい。
カウンターに預けていた体重を起こし、普通の体制に戻る。
もっと笑顔にすべき?サービスを付ける?
などなど…考えは浮かびはするが、それを実行できるか…それが鍵となるのだ。
笑顔はまだしも、サービスってなんだ?
香織
サービスとかわかんないって……

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