車で十分ほどで、僕らが出会った小学校が見えてくる。数年前に廃校になってしまったのだが、取り壊されることなく 今日まで残されていた。
「…懐かしいな」
「ほんと。俺、あの遊具めっちゃ好きだったんだけど」
「僕はどちらかというと、教室で本読んでるタイプだったからなぁ…」
車を降りて、少し低くなった場所に建設された小学校を眺める。木造の遊具は木が腐ってしまっているためか、ほとんど使えない状態にしてあった。
「小学校の頃は あんまり話さなかったもんな」
「…うん。そうだね」
「でも一つだけ、よく覚えてる」
「なに?」
「学芸会の時、馬の役やらされてたこと!」
「あぁ…確か 天衣(アマキ)は王子様の役だったっけ?」
「そうそう。王子様とか、笑っちゃうよな」
校舎の白い塗装は所々剥げており、時代の流れを感じさせる。いつの間にか、こんなにも大人になってしまった。
──僕も、天衣も。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。