「へぇ。年下かぁ…」
「うん。まぁ、元々店の手伝いしてくれてた子だから、出会って八年くらいかな」
「…ふーん。というか、僕が家行って大丈夫なの?」
「ちょうど陽子(ハルコ)も旅行いってるんだよ。高校時代の友達なんだってさ」
「そっか」
帰る途中で寄った スーパーで酒を買い、天衣の家に着いたのは西日が眩しくなる頃のことだった。
「どうぞ」
「…お邪魔します」
決して新しくはないアパート。
部屋の中は女性と住んでいるだけあって、かなり綺麗だ。
「適当に座って」
スーパーの袋から缶ビールやらおつまみやらを取り出しながら、天衣はそう言う。
荷物を部屋の隅に置いて、僕は彼の斜め前に座った。
「ビールでいいよな?」
「うん」
部屋の所々にある“女性らしさ”に、思わず目を背けたくなる。
いつかこういう日が来ると分かっていたはずなのに、どうしてこうも受け入れられないのだろう。
「じゃ…乾杯」
江戸切子に焼酎を注いでそう言う彼は、何も知らない。
「…乾杯」
アルミ缶とガラスがぶつかる音が、あまりに小さくて 少し鼻の奥がツンとした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!