朝。
カーテンの隙間から暖かな日差しが入り込んで、私の閉じたままの視界を仄かに照らして意識を取り戻す。
意識は取り戻したものの、なんだかまだ身体を起こす気分にはなれそうもない。
小さく伸びをしたまま、まだ目を開こうともせず、しばらく目瞑ったまま布団に潜っていると。
突然目の前から力無く抱き締められる感覚。突然と言っても、毎朝のことで別に驚くこともない。
つんつん、と優しくつつかれるのも日常茶飯事。
そのすぐ後にあまっっったるい声で起きてぇ...と聞こえるのも日常茶飯事。
目を開いて一番に視界を埋めるのは、寝起きの癖に可愛い社会人の開きかけの目。
どうにか起きようとしてるけどまだ目は開いてないし、ほっぺたをつついてた指も行方が分からなくて今や鼻をつついてる。
可愛いなぁ、幸せだなぁ、が同時に私の頭を埋め尽くして、いつも以上に多幸感に包まれて。
子犬のような声を出した彼女。伸びをしながら掛け布団から出るかと思えば...その姿はどこぞのイタリアン絵画に描かれていそうな格好。
ちょ...どんな寝相ならそんな格好になるの...?
掛け布団を引っぺがした南さんは、未だそこから動こうとせず。
大きく開いた胸元からそろそろ危ない所が見えるんじゃないか。
そんなギリギリの格好をしてる人にもう一度掛け布団を被せて。
言葉にならない言葉で何かを伝えようとしているその人をそのままにして、リビングへ朝食の準備に向かった。
普段は絶対しないバックハグをまさかの南さんからしてきて。
ちょっと背伸びして、頑張って私の耳元で囁こうとしてるその様子に笑っていたら。
背伸びを諦めたと同時に私のおへそあたりをうろちょろし始めたその手。
服まで捲りあげられて朝の少し冷たい空気に胃が萎縮して。
びっくりして少し声を大きくしてしまうと、珍しく悪戯な笑顔でダイニングテーブルの方へ戻って行った。
...な、なんか、何かが変だな、今日の南さんは...
下から向けられるもう逃がさないと強い意志を感じるその視線に捕まって、するりと私の手に絡まる暖かい手。
多分この人はずっと我慢していたのか、耳も赤いし手は信じられない程熱い。
ワイシャツがずれて見え隠れしている綺麗なうなじに、私はひっそりと息を飲んで。
自制、自制しなきゃ。
頑なに襲わないと決めていた私の決意は、その数瞬の誘惑で全てが崩れ落ちた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!