第181話

バイト 南
4,610
2023/02/10 17:18


すみません、受験生の続きが全然思い浮かばないので書けそうになったら書きます🥲

代わりと言ってはなんですがこちらをどうぞ...です...(?)










___




カフェでの仕事って、色々あると思う。

例えばケーキの盛り付けだったり、ドリンクの用意だったり。食器洗いにシルバーのセット、紙ナプキンの補充とかトイレ掃除とか。

これに限らず、多くの仕事をこなす必要がある。

暇な日ならいい。人が少なかったり、予約が少なかったりする時なら、全然いい。

…今日は、運が悪かった。

隣の先輩はそう言ってくれるけど、思い返せば返すほど自分への呆れが止まらなくなる。


『そんな落ち込まんくても…よくある事やって、だいじょーぶ笑』

「お皿10枚一気割りがよくある事なら世のカフェは回ってませんよ…」

『正直、オーナーも悪いと思うで?あんなに人たくさんおったのに、ホールの仕事全部あなたちゃんに任せっきりやもん』


関西弁を巧みに操り、私の背中をぽんぽんしながら慰めてくれる先輩。巷で噂の美人店員、名井南さん。

オーナーが胸を張って"うちの看板娘だ!"と言い切るこの人は、確かに美人で過剰なくらいにいい人。

仕事も出来るし性格もいい。以前勉強を教えて貰って分かったことだけど、頭の方もかなり良い。

そんな完璧超人みたいな人に慰められても、ひねくれた受け取り方しかできないひねくれた私。


「南さんって凄いですよね。」

『ん?何が?』

「オーナーから無理難題押し付けられても嫌な顔1つしないし、スムーズに終わらせちゃうし。むかついたりしないんですか?」

『そんなことない…よ?心の中は複雑やもん。』

「でも顔に出ないじゃないですか」

『まぁ…忙し過ぎて顔に出す余裕すらないってだけやけど』

「…人間出来すぎですよ、ほんと」

『そんな褒めてもなんも出てこんよ〜笑』


あーあ、この人がもうちょっとクズだったら悪口も沢山言えたんだけどな


顔よし頭よし性格よし。南さんと知り合って約2年が経った訳だけど、未だにこの人の口から悪口という悪口を聞いた記憶が無い。

正直、ちょっと怖い。何考えてるか分からないし、こんなに人をボロクソに思ってしまう自分が低俗に思えてしまってなんかむかつく。

けどこの人はそんなことはお構い無しに色んな話をしてくれるし、慰めてくれるし、遊びにも誘ってくれる。たまに奢ってくれたりするし、なんか大人って感じ。まぁ2つしか変わらないんだけどね。

そんな具合で、善人ぶりが凄まじいこの人に悪口を言うのは気が引けてしまって。オーナーへの悪口も、非常識お客への悪口も全部友人にこぼしてる。友達に悪口を聞いてもらうのもちょっと申し訳ないから、最近はかなりストレスが溜まってたり。

沢山の話をしてくれるのも、遊びに誘ってくれるのも、嬉しいけど困る。いつも顔に出ないだけに、私を含む周りの事をどう思ってるか分からないから。

私がお皿割った時も、前にオーナーにめっちゃむかついて暴言吐いた時も、何故か南さんだけはにこにこしてたから。

今はもうオーナーとは仲直りもしたし、あの時何で喧嘩したかも覚えてないけど、あの瞬間の南さんの顔だけは、忘れられない。それくらい、衝撃的だった。


『あなたちゃん、ちょっと私の事買い被りすぎやな』

「はい?」

『私、そんな善人ちゃうよ?笑』

『…どういう事ですか?」

『仕事、してる時はどうも思わないってだけで家に帰ったらいらいらしとるもん』

『あの時あの人手空いてたのになんで私に押付けてきたん、とか、なんであんな客にへーこらせなあかんのとか』

『普通にむかつくし、普通に文句も言っとるよ。お母さんに。笑』

「えー…なんか、想像つかないです。嘘ついてます?」

『そんなんで嘘ついてどうするん笑』

「だっていっつもにこにこしてるし…前に私がオーナーと喧嘩した時も笑ってたじゃないですか」

『その言い方やと私がサイコパスみたいに聞こえるやん』

「ぶっちゃけ私はそう思ってます。」

『怒るよ?笑』

『あの時はさ、私もあなたちゃんと同じ気持ちやったから。いけいけ〜って気分で観戦してただけ』

「なんですかそれ…笑」

『まぁ…あなたちゃんが思っとる程、私いい人やないよ。人間やもん。』

「…急に深イイ話」

『そんなつもりやないけど笑』


私達が座るここは、オーナーに休憩してこい、と店内から追い出されて着いた裏口前。吹き付ける風は少し寒い。

この人は本当に、いい人。いい人だけど、いい人すぎるのも困りものだな。

こんな寒い風ですら味方につけちゃうんだからさ。

ふと感じた香りは、風上から私の元へ流れ着いた隣の人の香り。香水って程きつくはないから、きっとヘアオイルかなにかの香り。

こうして休憩をする度、感じるこの香りが好き。いつも出掛ける度に感じるこの香りが好き。

こうして慰めてくれる時の、優しい顔が好き。

こうやって、たま〜にそれっぽくかっこいいこと言うところもちょっと好き。

何を考えてるか分からないところも、実は好きだったりする。

…ま、向こうがどう思ってるかなんて分からないから言わないんだけど。

突然の自分性格悪いで!という発言は、別に驚くことでもなく。やっぱりこの人でもそう思うことはあるのか、程度。

でも、性格は悪くない。だって結局、この人は悪口は言わないんだから。


「…でも、やっぱり南さんはいい人ですよ」

『なんでそう思うん?』

「なんで?…なんか、雰囲気とか?」

『なんなんそれ笑』

「ただ、自分で自分性格悪いですって言う人は、大概悪い人じゃないです」

『ふ〜ん?』

「なんですかその目。笑」

『いや?ただ…』

『私なんかより、あなたちゃんの方がいい人だと思うけど』

「慰めのつもりなら、全然慰めになってないですからね」

『そんなんやないって笑』


付け焼き刃みたいな褒め言葉ぶつけやがって。なんて、またひねくれたりして。

100点の人間が50点の人間に凄いねーって言ってるようなものだからな、なんて思いつつ、膝に掛けていたブランケットを畳んで。

少しくしゃみをした隣の人に腕を引いてもらって、体感100kgはある腰を持ち上げる。休憩の間ずっと座っていた腰は寒さでだいぶ固まってしまったらしく、少し逸らしただけでバキバキと音が鳴る。

隣の人は相変わらず良い香りをさせていて、少し長いポニーテールを整えてから立ち上がる。たったそれだけでも絵になるんだから、美人ってのはほんとに羨ましい限りだ。


『そろそろ休憩終わるし、戻ろか』

「そですね…南さん、今度映画見に行きましょ」

『え、急に?笑』

「慰め会開いてください。笑」

『ん〜、まぁ、ええよ。何見るん?』

「ホラーで」

『ごめんそれは嫌やわ』

「さっきいいよって言いましたよね」

『それとこれとは話が別やん?』

「じゃ、よろしくお願いしますね。笑」



あー全く。人の気も知らないで、なぁ。


店内への扉を開くと、ついさっきまで随分豊かだった表情が笑顔に固定される。仕事用、ビジネススマイルというやつだ。

私も、いつまでもうじうじしていられない。

軽く髪を整えて、ちょっと頬を抓ってみたりして。


南さんに並べるように、頑張ろかな。









プリ小説オーディオドラマ