第39話

桜散る頃花開く(3) ツウィ
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2021/04/13 13:16







あのプチ事件から今日で約三週間。









あの男は二週間の停学を経て、この学校を去っていった。









追い掛けるように取り巻きたちも消えていき、









平穏な日々が舞い戻ってきた。









俺の苦い思い出である桜達も









奴らが消えると同時に花弁を散らし始めた。









俺の部屋から見える桜の花はもう片手で数える程しかない。









学校の中庭にある桜の木も、









青々とした葉をつけ始め、少しづつ春が去っていくのを感じる。









ツウィ
ツウィ
あなた先輩!
あなた
おー、ツウィちゃん、昨日ぶり
ツウィ
ツウィ
なんですかそれ笑








あの事件から今日まで、俺たちは今のところ毎日一緒に帰っている。









ツウィちゃんと話すのは楽しいし、何しても可愛いから癒される









ツウィ
ツウィ
今日、帰る前に中庭寄っていきませんか?
あなた
え、大丈夫なの?
ツウィ
ツウィ
大丈夫になります!
あなた
なります...?笑
あなた
ま、いいよ
ツウィ
ツウィ
ありがとうございます!





そう言うといつもより軽い足取りで教室へ戻っていく。









あの男がいなくなったからか、あの二日間とは打って変わった様によく笑う









やっぱり笑ってる方が似合ってる。






































あの事件をきっかけに、俺はツウィちゃんのことばかり考えている気がする。









授業中も、ツウィちゃんは今何を受けてるんだろうかとか









街を歩いていてもツウィちゃんだったら多分これだなぁとか









俺も分かってる。けど。









怖い。









あの人とツウィちゃんは違う。圧倒的に。









そんなことは百も承知だ。









だが、それでも俺はどこか怯えている。









何度も言ってしまおうかと思ったが、









言った時のことを想像するとどうしてもあの人と同じ言葉が返ってくる。









「ありがとう」









「でも」














「ごめんね」















ツウィ
ツウィ
あなた先輩!
あなた
...っえ?ご、ごめん、どうした?
ツウィ
ツウィ
もう、大丈夫ですか?
あなた
うん笑ごめんね
ツウィ
ツウィ
もう随分減っちゃいましたね〜
あなた
そうだね〜...
ツウィ
ツウィ
あの人から告白された時、ここ満開だったんですよ?
あなた
そっ...うだったんだ








告白。例え昔の話でも少し胸にモヤが残る。









あれ、俺こんなに女々しかったかな






ツウィ
ツウィ
探してみましたけど、咲いてるのもう一輪だけですね笑
あなた
三週間って儚いよなぁ〜笑
ツウィ
ツウィ
儚い...ちょっとかっこいいですね
あなた
そう?笑
ツウィ
ツウィ
はい。かっこいいです






体を正面に向けて言ってくる。









俺の事かと勘違いしてしまいそうだ...そんな訳ないのにな









ため息をつきかけたその瞬間、ツウィちゃんが一歩詰めて口を開く








ツウィ
ツウィ
先輩...ってかっこいいですよ
あなた
え?笑
ツウィ
ツウィ
私、先輩のこと好きです。
ツウィ
ツウィ
私と...付き合ってくれませんか?






あまりに唐突で衝撃で









世界が止まったような、そんな気がした。









願ってもいないこの状況に、俺の首はごく自然に動いていた









あなた
...喜んで






その瞬間、俺とツウィちゃんの間に一輪の桜がゆっくりと落ちてきた









と同時にツウィちゃんの目からも一粒の白い光が落ちる





ツウィ
ツウィ
ほんと...ですか?
あなた
先輩は嘘つかないよ





その瞬間俺の中に飛んできたツウィちゃん









地面に落ちた桜の花はツウィちゃんに踏まれたはずなのに









潰れもせず、まるでそこで開花したかのように生き生きとして見えた


























































あれから一年。俺達は円満な付き合いを続けてきた。









俺は卒業の季節になり、都心の大学への進学が決まり、









しばらくツウィと会えなくなる。









何も無くなった俺の部屋から見える桜の木には、









あの時と同じ、小さな蕾が見えた。








あなた
長期休みは帰ってくるから、そんなに泣かないで?
ツウィ
ツウィ
だってっ...遠すぎっ...
あなた
毎日電話もするしLINEもする。
不安にならなくて大丈夫






そう言って優しく抱き締めれば、ツウィもそれに応えてくれる。









それが可愛くて思わず力が入ってしまう







ツウィ
ツウィ
ちょっ...痛...笑
あなた
お、ごめんね?笑
ツウィ
ツウィ
大丈夫...ねぇ、私の事好き?





今の俺は素っ頓狂な顔をしてると思う。









この一年、嫌という程愛を伝えてきたつもりだし









何度も愛し合ったけど、一度もこんなことを聞かれなかった









寂しくなったのか...?






あなた
好きとか大好きじゃ収まんないくらい愛してる
ツウィ
ツウィ
...えへへ...私も愛してる





そう言うと恥ずかしくなったのかあの時と同じように、









いやあの時よりも勢いをつけて俺の胸に飛び込んでくる









少し後ずさりしながらもしっかりと受け止めると、









ドアの閉まる音がした









と同時に唇に柔らかい感触も。









驚いて固まっていると、









閉まったドアの向こうから愛しい彼女が優しい笑顔で手を振っている









彼女の顔が見えなくなると気が抜けたかのように体を椅子に預ける









やり逃げか......














今度会ったら覚えときな?




















それだけメッセージを残して目を閉じる






























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