第3話

月曜日の放課後(男主)(1) サナ ✒️
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2023/03/20 17:24


月曜日。


世間的に個人的にもあまり良い印象はないこの一週間の始まりを担う曜日。休み明け初日の、非常にやる気の出ない日。

そんな月曜日がいつからか、俺にとっては毎週の楽しみで1番好きな曜日に変わっていた。

その原因と呼ぶべきか。いや、きっかけと呼んだ方が聞こえはいいのかもしれない。

俺がこの月曜日を特別に感じるようになったきっかけ。それが今、当然のように目の前を歩いている。ごりごりの関西弁を巧みに操り、楽しそうに話しながら。

サナ
サナ
……でな、そこなんもないのにきれ〜にずっこけてん笑
友1
友1
意外とドジなんだねあの子笑
サナ
サナ
逆に心配なるくらいドジやで笑
サナ
サナ
...あ!あなた!?おはよ!!

上目遣いのプロフェッショナル。朝から視界が霞むほどに眩い笑顔で近寄ってくる、我が校一顔が良いと噂されている湊崎紗夏。

幼馴染であり、実は俺の片想い相手でもあり、そしてなかなか距離の縮まらない友人。まぁこれ以上縮まりようの無い距離感なだけなんだけど。

ついさっきまで誰かのことをドジだのああだのと噂していたくせして、自分も何も無いところでつまずいてる。転びこそしないもののだいぶよろけながら。

前髪を整えながら目の前に訪れた紗夏は、さすがプロフェッショナル。笑顔に加えてその大きな目で見上げるという身長の差を最大限に活かした堕とし技を披露してくださる。

あなた
おはよ...笑 足、大丈夫?
サナ
サナ
おん、だいじょぶ。笑
サナ
サナ
今日、ちょっと遅れるかもしれんけど大丈夫?
あなた
1時間とかじゃなければ
サナ
サナ
さすがにそんなに長引きはせん...と、思う。
あなた
前もそう言って2時間くらい待たされた記憶あるけど?
サナ
サナ
...ま、そういう事で!よろしくな!笑
あなた
うわ、逃げたな。笑
サナ
サナ
ひひ笑 また放課後な!


毎朝これくらいの短い会話しか交わさない。いや、話そうと思えば話せるんだが...まぁ、俺こう見えて意気地無しだから。紗夏が話し掛けてくれる以外は、会話の種はほとんどない。

本当はもう少し話したいと思うけど、紗夏にも友人がいて、毎朝一緒に登校する友人もいる。その時間をただの幼馴染が邪魔するのも、若干の罪悪感を覚えるから。

それに、今日は月曜日だからまだ心に余裕がある。月曜だからと言うよりは、他の曜日よりは話せる時間が多いから。

...そろそろ俺もちゃんとしなきゃいけないんだけどな


ジョンホ
ジョンホ
おっ。今日は落ち込んでねぇんだ。
あなた
まーな


一人寂しく、遠ざかる彼女の揺れる髪を見ながら歩いていた俺の背中を力強く叩く人間がいる。毎朝一緒に学校へ向かうだけの友人、チェ ジョンホという男。

あ、あと部活のチームメイトでもある。特別仲がいい訳ではないけど、よそよそしい訳でもない。部活内でいえば仲良い方ではある。そんな感じ。

毎日二人並んで登校してたはずなのに、何故か月曜日だけは忘れて先に行ってしまう。それで毎度怒られたりジュース奢らされたりしてんのに。これが恋愛パワーか、なんて意味の分からないことが頭に浮かんだ。


ジョンホ
ジョンホ
今日部活OFFだろ?放課後遊び行こうぜ
あなた
んや。先約ある。
ジョンホ
ジョンホ
毎週先約あるよな、嘘ついてるだろ。
あなた
嘘じゃないわ笑 ただ毎週月曜日は用事あんの。
ジョンホ
ジョンホ
さては……女か
あなた
さぁ。
とりあえずこのままだと遅刻だし走るか
ジョンホ
ジョンホ
えっ...な、おい置いてくなよ!!


いつの日か後ろの男に聞かれたことがある。なんでそこまでして月曜日は誘いを断るのかと。教えたことは無いけど。

理由なんて単純なもの。ただこれを言ってしまえばからかわれるのは分かりきってる。だから言わないだけ。

俺にとって月曜日は特別で、大切な日。だから邪魔したら絶対に許さない。

それだけ分かってくれれば他に無駄なことは言う必要が無い。だから言わない。

たらたらと走るジョンホを置き去りにして、生徒指導の先生にギリギリだな、と見逃されて。

後に聞こえてきたおい!遅刻だぞお前!!という怒声のおかげで自然と背筋がピンと伸びる。

今日もいい一日になりそうだな














あなた
あ〜!やっと帰れる...
ジョンホ
ジョンホ
せめて下足ロッカーまでは一緒に行こーぜ
あなた
ま、許してやろう。そっから先は話しかけるなよ
ジョンホ
ジョンホ
なんかさぁ...え、俺ら友達だよね?
あなた
あーうん友達友達。
ジョンホ
ジョンホ
絶対思ってねーなー...


昇降口を出て、少し歩く。いつもの待ち合わせ場所に、いつもよりゆったりと向かう。紗夏のちょっと遅くなる、は最短でも30分は遅れる。そう気付いたのは中学3年の夏。

今日も多分1時間半位は遅れるだろうと踏んで向かっていたのに、正門入口付近には遅れるはずの紗夏の姿。噂されるだけあって、やはり目を引くその綺麗な立ち姿ですぐに分かった。

あなた
ごめ、なんか俺が待たせてるっぽいから先いくわ
ジョンホ
ジョンホ
おー
明日はしっかり部活来いよ!
あなた
毎日行ってるだろ笑


ジョンホと別れて正門付近まで小走りで向かう。この時間がなにより幸せな時間。

別に待たせて悪いと思って無いわけではないけど、やはり好きな人が自分のために待っててくれるのを嬉しいと思わない奴はいない。はず。

駆け寄って名前を呼べば、ぱっと顔を上げて向こうも駆け寄ってきてくれる。これもきっと、幼馴染の特権だろうな。


あなた
ごめん、待たせた?
サナ
サナ
んーん?そこまで時間経ってへんよ、10分くらい
あなた
なんだ、結構早く終わってたんだな
サナ
サナ
おん、なんかプリント配るだけやったみたい。5分で解散笑
あなた
そっか笑
サナ
サナ
じゃ、帰ろ?
あなた
っ...ん、そーだな


本当に、困る。

無駄に差のついた身長のおかげでこんなに苦しむ羽目になるなんてな。

行こうと差し出された俺より2周り小さい手。掴んでもいいものかと悩んでいるうちに向こうから繋がれてしまう。これが向こうはただの友情でやることだってんだから、振り回されてる気分でなんだか切ない。

まぁ、いいんだけど。

少しずつ空のオレンジ色が濃くなっていく。前を歩く彼女の向こう側にある太陽は、無駄に大きく見える。

これでまた1週間。そう思うと、やはりまた少し。

また、少しだけ胸が痛くなった。






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