第46話

また会える。 ミナ (男&女主)
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2021/04/21 13:35



こちらは戦争パロになっております。




人によってはあまり気分の良い内容ではありませんので、今のうちに戻っておいた方が良いかもです。




















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赤紙。それが届けば必ず召集に応じなければならない。









そんな時代に生まれたことを俺は酷く後悔している。








なぜこんな時代に生まれたのか?










そんなこと誰も知らないだろう。ただそういう運命であった。それだけである。









天皇陛下万歳?そんな思っても無い言葉をさも当たり前のように口から吐き出す









俺にも好きな人がいるのだ。将来を誓い合っていたのに。








分かっていたのだ。いつかこうなるのだと。
さらに悪いことに俺は特攻兵に選ばれてしまった。









特攻兵なんて名誉な位置を授かった。
非常に喜ばしいことであると同時に、素直に喜びたくない。









いざその状況になれば今すぐにでも逃げ出したい。









ここではないどこか平和な場所へ、彼女を連れて逃げ出したい。








それをすれば彼女と俺の家族の立場がない。









もう行くしかないのだ。行くのなら、俺は国の盾にでも矛にでもなんにでもなる。









ペンを持ち、便箋へと文字を綴る。









薄暗い部屋で、ほのかに明るい明かりの下でペンを止めたり走らせたりを繰り返す。









最後に会ったあの日、彼女から渡されたこの組紐が、机と腕の間で擦れている。









申し訳ありません、ミナさん。

「行って参ります」と言いましたが、戻れそうにありません。

あなたに出逢えたこの幸せは、常に噛み締めておりました。

お国のために、あなたのために、散ります。

私の家族を、母を、妹を、よろしくお願い致します。

一足先に向かわせていただきます。

最期になりますが、あなたに出会えて本当に幸せでした。

在り来りな言葉でしか伝えられない私をお許しください。

もし来世があれば、その時はあなたと生涯を共にできることを願っています。




では、私も行きます。




また逢える日まで。


























手紙にはしわがついていた。









丸く跡が付いていて、涙の形跡だとすぐにわかった。








ミナ
ミナ
あなたさんっ...



涙の上書きをするかのように、









止まらない涙を止めようとする。









隣には私と同じように最愛の人を亡くしたサナがいる。









わざわざ慰めに貴重な砂糖を持ってきてくれた。









この世が、憎い。こんなにもあっさり私たちの大切なものを人を奪えてしまうだなんて。









あなたさんの運命の日。私達が出逢うべくして出逢ったあの場所へ足を運ぶ。









あなたさんとの思い出が繊細に頭に浮かぶ。








1つ浮かべば止まらない思い出たちが私の涙を枯らしていく。









しばらくそこでうずくまっていると、戦闘機の大きな音がした。









空襲...!?と思ったけど、周りの人達は戦闘機へ向かって国旗を振っている。









戦闘機へ目を向ければ、顔は見えないけれどあなたさんだと分かる。









手を振っている右腕には私が渡したあの組紐がついていた。









最期のお別れ。









かすかに見えたその人の口は









「愛しております」









そう言っていたような気がして、









私の目からは信じられないほどの涙がこぼれていた。

















































終戦から76年。









周りの人達は終戦記念日なんて他人事のように思っているようだけど、









私にはどこか人ごとには思えんかった。









サナ
サナ
みーたん!夏休みやし、どっか遊び行かん?
ミナ
ミナ
ごめん!ちょっと行きたいとこあんねん
サナ
サナ
サナも一緒に行ったらあかん?
ミナ
ミナ
一人で行きたいから...ごめんな?
サナ
サナ
ん〜...じゃあその後!絶対遊ぼな!
ミナ
ミナ
うん!また今度な!






行きたいと言ったその場所は、私も生まれてこのかた一度も行ったことのない鹿児島県









初めてでかなり迷ったし、もう帰りたいとも思った。








でも行かなきゃならない。そんな気がしたんや。
























終戦記念日になると私達の家族は曾祖母の家に集まり、先祖の方々へ向けて黙祷を捧げる。









何でも、私たちの先祖に特攻兵として太平洋に沈んだ英雄がいるらしい。









いつの日か夢に見た。私が戦闘機へ乗り込んで、どこかの上空でとても綺麗な女性を見つめていた。









あまりにもリアルすぎる夢で、特攻の瞬間に目を覚ました。









心臓が痛いくらいに早く動いていて、全身から滝のように汗をかいていた。










黙祷を終えて、親族全員で夕食の準備をしていた。








昔から。一年に一度しか来ないこの辺りに、私はどこか懐かしさを覚えていた。









母に許可を得て歩き始める。









どこか懐かしくて、見たことの無い景色の中にまた違う景色を見ていた。









ある神社の前で足を止める。









住宅街の中で一際目立つ雰囲気を纏う神社。









あなた
...なんかここ、好きだな。





一言呟いて写真を撮る。









撮った写真を眺めていると、夢を思い出す。









...まさかね笑









かなり古い鳥居の前で一礼をしてくぐる。









神社の目の前に立てば不意に思い出すあの夢。









ここがあの夢の場所なのかと馬鹿な妄想をくり広げていると、親戚のおじさんがやってくる





おじさん
おじさん
お、あなたちゃん、どうしたんだい?
あなた
あ、いや...なんか懐かしいなって
おじさん
おじさん
面白いことを言うんだね笑
ここはね、俺たちのご先祖様が上空を飛んだらしいんだ。
あなた
そうなんですか?
おじさん
おじさん
ああ、なんでも、最愛の人に別れを告げるためとか
おじさん
おじさん
ロマンチックなもんだよな。最期の別れ、なんだろうな。





あ、そうだ、これを渡しておくよ。








そう言って渡されたのはかなり古くなったミサンガ。







かなり古いけどこんなのつけるのあなたちゃんくらいしか思いつかなくてね。

そう言って先に戻って行った。









もう少しここにいたい。直感がここにいるべきだ。と伝えている気がして、近くのベンチへ腰をかける。









人気が無さ過ぎて少し怖いくらいだけど、どこか居心地が良くて離れたくない。









こんな住宅街の中にあるのにこんなに人が少ないことあるんだ笑









上を見上げれば光が木々の間から私の目に差し込む








眩しさに耐えられず、思わず顔を背けると









背けた先にはとても綺麗な風貌をした女性...いや同い年っぽい女の子が立っていた。









彼女はこちらに気付くと何かハッとした様な表情をしている









どっかで会ったことあったかな...









とりあえず軽くお辞儀をして目線を神社へ戻す。









神社に目を向けたはずが、視界に入るのは草原と、その中に一人立ち尽くす綺麗な女性。









彼女が先程目が合った女性にあまりにも似ているから、









鳥居の方へいる女性に綺麗な二度見をかました。









彼女も何かを見たのか、こちらを見つめていて、









なんとも言えない空気に思わず口を開く。







あなた
あの...隣座りますか?
ミナ
ミナ
あ...失礼します



おずおずと腰をかけた彼女。









あまりにも夢の中のあの女性と似ていて少しばかり見つめてしまった









隣の彼女もなにか気にかかることがあったようで、









ひとつの質問をしてきた。






ミナ
ミナ
あの、変な質問してもええですか?
あなた
あ、はい。どうしました?




関西弁。ここは鹿児島だから...遠いな。





ミナ
ミナ
あなたさん...ですか?
あなた
...え?




なんで私の名前を知ってるの?









関西弁だし、絶対会ったことないと思うんだけど。








戸惑っていると彼女が口を開く。





ミナ
ミナ
私はミナって言うんやけど...
あなた
ミナ...さん?ですか?
ミナ
ミナ
そう。





見つめれば見つめるほど夢を思い出す。









夢の中の彼女に似ているどころじゃない。もはや本人なんじゃないかという程に。









ミナ...ミナ?どっかで聞いたような名前...









私も意識しないうちに口から出ていた。





あなた
ミサンガ...
ミナ
ミナ
え?



さっき渡されたミサンガを取り出してミナさんに見せる





ミナ
ミナ
......持っててくれたんや。
あなた
これ、ミナさんのですか?
ミナ
ミナ
ちゃうよ...私があなたさんにあげたんや。76年前に。
あなた
え、それってどういう...




言いかけるとミナさんが右腕にそのミサンガをつけてくれる。









その瞬間に私の知らない記憶が頭に流れ込んでくる。









赤紙。特攻隊。遺書。戦闘機内。そしてこの場所。









あの夢で見た事に関わる事が鮮明に思い浮かんで、









隣の彼女のこともはっきりと頭に浮かぶ。









知らないうちに泣いていたようで、ミナさんがハンカチで拭ってくれていた









あなた
ミナさん...お久しぶりですね
ミナ
ミナ
ほんまですよ...うちもあなたさんを見ない限り思い出せんかったと思います笑
あなた
なんだか初めてなのに懐かしいですね...笑
ミナ
ミナ
初めてやないですよ。76年前、私たちは愛し合っとったんです。
あなた
なんか実感ありませんね
ミナ
ミナ
長い年月経ちましたから笑
あなた
女性になってしまった私ですけど...今でも愛してくれていますか?
ミナ
ミナ
......何当たり前のこと言うてるんですか
あなた
...へへ、それもそうですね







そう言うとミナさんが目を瞑る。









綺麗な顔に惹き付けられるように唇を重ねる。




























どこか懐かしいこの香りも、きっと76年前のあの日と同じなんだろうな。



























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