第16話

別れと出会い(1) ミナ
8,638
2021/04/06 02:57
愛しい人からの最後の一言





ナヨン
ナヨン
……別れて欲しいの。








特に衝撃を受けることもなかった。
あなた
なんで、?
ナヨン
ナヨン
……他に好きな人、できちゃった。
あなた
そっ…かぁ……
あなた
仕方ない、ね




私も薄々勘づいていた。





ここ最近は会話も少なくなり電話も減った。






一緒にいてもお互いスマホばかりで飲み物すら手をつけない






もうそろそろ終わりだな。






そう思っていたのは、ナヨンも同じだったみたい。
ナヨン
ナヨン
でもっ…もし、もし戻れるなら…友達として…
あなた
……うん
あなた
でも、しばらくはお互い…距離置いた方がいいんじゃないかな
ナヨン
ナヨン
…そう、よね…
あなた
じゃあ、また
ナヨン
ナヨン
……うん……







そう言って同居していた家を出る。





元々はナヨンの家だったし、私が住まわせてもらっていたから





今月分の家賃と今までありがとうの意を込めたナヨンが好きだったオムライスを置いて






今ではもう戻れない。








心も体も。あんなに近かったのに、もう戻れない距離まで来てしまった。



この辺りの夜空は綺麗だと聞いた。
上を見れば、私の想いとは裏腹な澄んだ星空が広がっていた。







ここで初めて、涙が出た。






ナヨンの肌の温もりや、今履いてるお揃いの汚れきったスニーカー。






もうこんなに時間が経ったのか……
あなた
…楽しい時間、すぐ過ぎちゃったなぁ…



付き合って2人して喜んで……





気付けば別れて泣いて…


あなた
束の間の幸せ…か…







ナヨンがいなくなった世界は






急に色が無くなったみたいに白黒で






それでもどこかに何か大事なものが






白黒の中に紛れ込んでる気がしてならない。






そんなことを考えてもどうにもならないのに。
































































思い返せばあれから1年






私には新しい彼女ができた。







ナヨンとは全く別のタイプ






ミナ。私の彼女の名前だ。






ナヨンといた時は常に刺激だらけですごく楽しかったし生きるのが楽しかった





けれどミナといると、ナヨンにはなかった安心感というものがあった。






なにかのために生きるとかそんな考えをしなくてもいい






そんな人だ。







しかしそんな幸せの中にも多少の山はある訳で。







1年ぶりにナヨンから連絡が来た。






「会いたい。」






たったその一言だったが、なにか引っかかった。







あなた
ミナ、
ミナ
ミナ
ん〜?
あなた
あの、さ…



何を察したのか、ミナが私の頭を撫でながら



ミナ
ミナ
ゆっくりでええから




どこまでもできた彼女だ




あなた
明日、元カノに会ってきてもいいかな



一瞬空気が詰まった





手段として何も言わずに行く手もあったが。





やはり裏切るようなことはしたくない





少しの間を置いたあと、ミナが口を開く
ミナ
ミナ
ええよ。
あなた
……ほんとに?
ミナ
ミナ
おん。その代わり、今日はどこも行かんで。
あなた
わかった。
ミナ
ミナ
明日も10時には帰ってきて
あなた
うん
ミナ
ミナ
明後日は私の買い物ついてきて
あなた
いいよ
ミナ
ミナ
あと……
あなた
うん
ミナ
ミナ
浮気とか……せんとってな……


涙がこぼれるのを堪えながら言う彼女が愛しすぎて




思わず抱きしめてしまう




あなた
大丈夫。私にはミナしか見えてない。
ミナ
ミナ
……ほんまやな?
あなた
過去にも未来にもミナより好きになった人はいないよ
ミナ
ミナ
でも……私置いて元カノに会いに行ってまうやん……
あなた
ケジメをつけてくるだけだから
ミナ
ミナ
……私信じて待ってるでな。
あなた
うん、絶対
ミナ
ミナ
そんならええねん!



さっきの涙はどこへやら





ケロッとした笑顔で私に軽く口付けをして




ミナ
ミナ
今日は私が好きな"オムライス"作ってや!
私も手伝うで〜



オムライスか……長いこと会ってないから忘れてたけど、ナヨンも好きだったな……






そう思うと少し悲しい顔でもしていたのだろうか





ミナに軽くチョップされた


ミナ
ミナ
今、元カノのこと考えてたやろ
あなた
え、あ、そんなことは!
ミナ
ミナ
顔に出とったで。
元カノの事考えるんは明日だけ!
ミナ
ミナ
それ以外は私以外見たらあかん!


ぷく〜っと頬を膨らました愛らしい彼女の頬をつつくと





彼女はふしゅ〜と音を立てながらしぼんでいく





何をしても可愛いと思えてしまうのは今にも昔にもミナだけ。











翌日

あなた
じゃあ、行ってくるね



ミナは下を向いていてこっちを見ない





やっぱり嫌だよなぁ…と思い釣られて下を向く






下を向いた瞬間袖を引かれる





気が付けば目の前にはミナの綺麗な顔があって






唇に柔らかい感触があった





何が起きたか分からないというような顔をしていたら






ミナが満面の笑みで送り出してくれた





ミナ
ミナ
行ってらっしゃい!



絶対嫌なはずなのに。私のわがままを聞いてくれて。






心細いはずなのに。それでも笑顔で背中を押してくれて。






浮気なんて出来るわけない。


あなた
行ってきます!






そう言って、待ち合わせ場所へ1歩踏み出した。




























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