深夜0時の10分前。いつもと変わらず就寝前のルーティーンをこなして、日々のご褒美としてちょっと女子っぽくアロマを炊いてみたりもして。
最近連日でトラブルを対処した自分を労わる為に、明日は一日中映画でもみて過ごそうかと考えていた時のこと。
『…来ちゃった。笑』
真夜中に誰かが訪ねてくるなんて初めてなのに、その上ほぼ寝着のまま私の家の戸を叩いたこの女性。
数年前、今勤めている会社に同期として入社して、ひょんなことから仲良くなって、時折休みを合わせて遊びに出かけたりもするほどの仲。
数年の付き合いでも、こんな真夜中に連絡もなしに訪ねてくることなんてなかった。しかも見慣れない寝着姿。
真夜中だからなのか、それともここを訪ねてきてくれたことへの嬉しさからなのか。いつもと違うように見えるその瞳に、少しだけゾッとした。
なんとなく、その目が私を誘ってるように見えて。やはり疲れが溜まっているのだと、少し昂った感情を抑え込んだ。
「どうしたの、こんな真夜中に来るなんて。しかも連絡もなしに。」
『ん〜…別に、来たかっただけ』
『それよりなんか、ええ匂いするなぁ』
「ちょっ…何、酔ってる…?」
『酔ってな〜い…』
突然に突然が重なる。私が扉を開けて、中へ入れた途端に小走りで私の寝転がっていたベッドに体を倒した彼女。
何をねだるでもなくただそこにうつ伏せに寝そべるだけの彼女は、本当に何をしに来たのか動かない。
困惑したままの私がぶつけた質問にもまともな返事は返ってこない。ただ来たかっただけ、なんて理由で本当に来るなんて、やはりこの人はぶっ飛んだことをする。
机上のアロマキャンドルに気付いたのか、ようやく顔を上げると。いい匂いがすると言いつつ、私の首筋に顔を寄せてはまるで犬のようにその香りの源を探している。
香りの元はキャンドルだって、わかってるはずなのに。
『ん…この辺からする』
「そ…んな訳ないでしょ、机のキャンドルからだよ」
『絶対この辺……』
「…?ちょっと、何しようとしてる?」
『ん〜、何も……!ふひ、紗夏ここ好き…』
「……もう、いいから離れて。それ以上近付かれると困るから。」
『なんでよ』
「…なんでも」
普段から距離感を考えない人だとは思ってた。私以外にも、私にも、誰彼構わず犬みたいに尻尾を振って。
そんなこの人が好きで、嫌い。好きだとも嫌いだとも言えないヘタレでずるい私は、無関心なふりをして友人という関係を続けてきたはずなのに。
…私の首筋から、少しずつ這い上がってくるその目に理性がもたない。不意に私の唇に触れた彼女の指先が、あまりに熱くて、耐えきれない。
交わる視線が逸れることはない。むしろその距離は、少しずつ短くなっていく。
いつもなら、ここで歯止めが効くはずなのに。数秒流れた沈黙が、彼女の中で何かを決心させたらしい。
これ以上近付いたら、もう私達の関係に戻れなくなる。
分かっているのに。分かっているのに、強気で押し返せない相変わらず意気地の無い私。
『なぁ、ちょっとだけ』
この人は危険。
分かっているのに、止められない。
Twitterのやつをそのままコピーしたので吹き出し使ってません!すみません💦
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。