第54話

おいてきたモノ。
317
2020/04/28 06:00
はじめ
ただいまぁ〜
2人で。しかもこんな夜に帰ってきたのは久しぶりだった。
はじめ
やっぱ、桜和ちゃん心配…?
はじめが私の顔を覗き込んだ。
あなた

う、うん…少しだけね…

はじめ
きっと大丈夫、どうにかなるから。
短い時計の針が指すのは、9。
何だかんだで行動していたら、もう夜だった。
ソファに腰をおろす私、キッチンへ向かう幽霊。
ついさっき桜和ちゃんが現れたのに。
私のことを「ママ」と呼ぶ声。
私たちの結婚式の写真を探すビー玉のような瞳。
うさぎのぬいぐるみを持つ小さな手。
出会ってたったの数時間で、どれもが愛おしくなった。
はじめ
なんだか静かで、久しぶりにゆっくりできそうだね。はい、ココア。
はじめがインスタントのココアをいれてくれた。
はじめ
先、シャワー浴びるね〜
幽霊でもシャワーは浴びたい ふふっ
あなた

ありがとう。

にこやかに笑う彼が、今現実では記憶喪失だなんて。
さっきまで忘れていた。
本当の彼は今…どんな景色を見ているんだろう。
@幽霊はじめsideーーーーーーーーーーーーーーー
ぬるいお湯が身体を叩く。
俺今、幽霊的な感じか〜
思っていたより不便ではない。
不思議だなあ。
5年前、あなたは幽霊になって、
俺と出会って、
今はこうして一緒になって、
本当にこれでいいのかな。
あなたは後悔してないかな。
俺は、シャワーの温度をさげた。
少し冷静になれるような気がしたけど、
そんなことは無かった。
湯けむりが上がるバスタブに足をつっこむ。
どことなく不安が押寄せる。
俺って数年前と全く変わってない気がする…。
こんな弱虫で、情けなくて、自信なんかどこにおいて来ちゃったのか見当もつかないけど。
とにかく今は、あなたと桜和ちゃんを守らないと。
でも、守るって…何から?
見えない何かをから、大切な人をどうやって…。

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