2人で。しかもこんな夜に帰ってきたのは久しぶりだった。
はじめが私の顔を覗き込んだ。
短い時計の針が指すのは、9。
何だかんだで行動していたら、もう夜だった。
ソファに腰をおろす私、キッチンへ向かう幽霊。
ついさっき桜和ちゃんが現れたのに。
私のことを「ママ」と呼ぶ声。
私たちの結婚式の写真を探すビー玉のような瞳。
うさぎのぬいぐるみを持つ小さな手。
出会ってたったの数時間で、どれもが愛おしくなった。
はじめがインスタントのココアをいれてくれた。
にこやかに笑う彼が、今現実では記憶喪失だなんて。
さっきまで忘れていた。
本当の彼は今…どんな景色を見ているんだろう。
@幽霊はじめsideーーーーーーーーーーーーーーー
ぬるいお湯が身体を叩く。
俺今、幽霊的な感じか〜
思っていたより不便ではない。
不思議だなあ。
5年前、あなたは幽霊になって、
俺と出会って、
今はこうして一緒になって、
本当にこれでいいのかな。
あなたは後悔してないかな。
俺は、シャワーの温度をさげた。
少し冷静になれるような気がしたけど、
そんなことは無かった。
湯けむりが上がるバスタブに足をつっこむ。
どことなく不安が押寄せる。
俺って数年前と全く変わってない気がする…。
こんな弱虫で、情けなくて、自信なんかどこにおいて来ちゃったのか見当もつかないけど。
とにかく今は、あなたと桜和ちゃんを守らないと。
でも、守るって…何から?
見えない何かをから、大切な人をどうやって…。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。