第65話

放っておけなくて。

時計の針が進んでいき、私はカリカリとシャーペンを走らせる。

吹部がロングトーンを練習する音が聞こえる。
ちらと窓の外を見れば野球部とサッカー部がグラウンドの取り合いをしている。
時折「パァー………ン」と響く音は射撃部の練習音だ。

射撃部。
エースは不死川先生の弟の玄弥。
初めて見た時本当に先生の弟でびっくりした。体格の良さといい、人相の悪さといい、遺伝子ってすごいね。

玄弥曰く「兄ちゃ………兄貴」は高校卒業と同時に実家を出ており、今や学校で会う以外は冠婚葬祭と盆正月顔を合わせるぐらいらしい。



閑話休題
意識を手元のプリントに移す。

だんだん訳がわからなくなり足をジタバタさせ頭を抱え身を捩り悶絶し、少しばかりペンを走らせまた同じ行動を繰り返す。

傍から見ればかなり奇怪な行動だが馬鹿が勉強と向き合うとだいたいこうなる。




どれくらいそうしていただろうか。
ついに、この瞬間が訪れた。

雪流 あなた
でっ………できた………!


まるで賞状を貰った子どもみたいにプリントを掲げ、ほあああ、と歓喜の溜息を漏らす。埋まった回答欄が誇らしい。

よっしゃあ、後は提出するだけだ!












相変わらず先生は寝たまま。
そのまま音をたてないように教卓にプリントを置いて、私は教室を出ようとした。
起こすことも考えたが夢から醒めた時目の前に私がいたら先生が気まずいと思った。

生徒である私に無防備な寝顔を見られたと知ったらこの世の終わりみたいな顔をするに違いない。

明日、学校で会ったら『寝顔は可愛いんだね。』と言えば先生はいつもの調子で怒ってくれるだろう。それで元通りだ。

抜足差足忍足教室後方に向かう。
カラカラとドアを開けてそろっと廊下に踏み出す。

一度だけ後ろを振り返った。

大好きな先生が私に寝顔を見せている。

雪流 あなた
〜〜〜〜…………ッ
駄目だ、やっぱり放っておけない!

踵を返して席に座る。


ここから先どうするか?
んなもん知らん、考えるのはやめた。
心配で、放っておけなくて、だからここにいる。
後のことは後で考える。
先生が起きるまでここにいる!
雪流 あなた
あっ、
フンス、と鼻を鳴らして腕を組んだその時、神の啓示。

そうだ、この手があった。
雪流 あなた
(私もいつの間にか寝ちゃったことにすればいいんだ!そうすれば先生を独りにしなくて済むし、気まずくならない!)

雪流あなた、天才的発想。と心の中で自分のことを褒め称える。

意気揚々と寝たフリをした私がガチの寝落ちをして先生に起こされるまで、あと、三時間と十二分____




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雨沙璃
雨沙璃
コメ欄に次のお話のあらすじをおまけしとくのでよかったら見てください。

閲覧ありがとうございます!


○月○日

先生の子ども時代ってどんな感じ?

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教えねェ、いつか教える日が来るかもな。