第74話

『親』の姿

あの日、初めて先生に会った日。

中学でのことを聞かれて、
雪流 あなた
三年間ちゃんと通ってたって言ったはずなんだけど
不死川 実弥
不死川 実弥
あァ、言ってたな
雪流 あなた
黙って働いてた。誰にも相談せずに。
親に虐待されて。親が病気で働けなくて。親だけが交通事故で天国に。児童養護施設で暮らす子供たちの数、約三万人。対して政府が出してくれるお金なんて微々たるものだ。

小規模な施設はどこも火の車。
家(──収容されている子は皆施設をウチと呼んでいた)も例外ではなく、経営状態は悪化の一途を辿っていった。
雪流 あなた
施設長………小柄なお爺ちゃんなんだけどすごくパワフルな人で。中学卒業したら就職すると言って聞かない私を、何日も叱り続けてくれた。

 明日死ぬと思って生きろ!
 永遠に生きると思って学べ!
 何度言ったら分かるんじゃこの大馬鹿者!
雪流 あなた
耳にタコが出来るまで言われた。子供が余計なこと心配しおってからに、いいから黙って勉強しとればいいんじゃ! って……昔気質の雷じいさんだよね。

でもねお爺ちゃん。
私、知ってたんだよ。
国から貰ったお金だけじゃ足りなくて、お爺ちゃんが自腹を切ってまで入学金を払ってくれたこと。

バイトしたお金、あの頃は昼の仕事だったし大した金額じゃなかったけど無理矢理お爺ちゃんに渡してた。なのに、全然使わないで大切そうに納戸にしまってるし。あの嬉しそうで、悲しそうな横顔。あんな顔されちゃったらさ、もう何も言えなくなっちゃうじゃん。
雪流 あなた
ほんと、元気の塊みたいな人で。幾つになってもああやって私を叱ってくれるって思ってた、けど……秋に倒れちゃって
ちょっとフラついただけじゃ!
雪流 あなた
だなんて、嘘ばっかり。
全然ご飯食べなくなったじゃん。
雪流 あなた
偽善………なのかな。

日に日に痩せ細っていく『親』を見て、これ以上この人から奪えないと思ったのだ。こんなに支えてもらったのだから、今度は私が支える番なのだと
雪流 あなた
……そう盲目的に信じ込むことで、大切な人を失うかもしれないという恐怖から逃げようとしていた。
不死川 実弥
不死川 実弥
それで黙って中学行かずに働いてたのか。卒業したら働くつもりで。
こくり、とひとつ頷く。
不死川 実弥
不死川 実弥
爺さんさぞ怒ったろ。
見事に言い当てられて先生を見る。
すると先生も私を見ていた。
不死川 実弥
不死川 実弥
………出来の悪い弟がいるもんでね。
不満げな呆れ顔で。
でも、気恥ずかしそうに。
不死川 実弥
不死川 実弥
ちったァ分かるんだわ。そーゆー気持ち。
『家族』を想い話す姿が大好きなお爺ちゃんと重なって見えた。






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《令和こそこそ噂話》

勘が鋭い人は分かったかもですが、あなたの言う『お爺ちゃん』は桑島慈悟郎さんです。
実は善逸も同じ施設出身で、小さい頃に養子縁組して施設を出ました。
あなたは中学に行くと見せかけて、中学生でも働ける所で必死に働いていました。