第71話

惹かれていた。
謝花 梅(墮姫)
わざわざ迎えに来るなんて、不死川の奴よっぽど惚れてるわね。
雪流 あなた
そそそそそんな訳ないですよ!それではお疲れ様でした!!

ニヤニヤしている堕姫さんに挨拶をしてバックヤードに向かう。そそくさと暗い廊下を走り、勝手口から外に出る。店の裏手を回って通りに………出る前に一回深呼吸。吸って、吐いて。吸って、吐いて。
雪流 あなた
(よし………!)

意を決して、一歩。
先生の待つ通りに出た。

先生は咥え煙草に目を細めしゃがんで(──俗にいうヤンキー座りだ)スマホを弄るというスタイルで待っていた。

寂れた飲み屋街のため電灯は間引かれている。先生の表情を照らすものはスマホの液晶だけ。すっきり通った白い鼻筋が暗がりにぽわ、と浮かぶ。
雪流 あなた
せ、………っ、先生

ただ呼んだだけなのに、心臓がはち切れそう。

あぁ、こんなにも私は不死川先生に惹かれていたんだ。

息が上手く吸えない。
胸が、苦しい。

スンッと鼻を啜る音が聞こえた。
視線だけを動かして私の姿を捉えた先生は、
不死川 実弥
不死川 実弥
寒ィ、とっとと帰んぞォ。

と言って煙草を携帯灰皿にねじ込み、やおら立ち上がった。

私の前をさっさと歩いていってしまう背中。

いくら五月と言えど冷たい夜の風がヒュウ、と吹く。

私は何も言えず、追いかけることしか出来ない。
雪流 あなた
(先生、なんで何も喋んないんだろ。)

さっきまでドキドキと浮ついていた気持ちはどこへやら。先生の真意が読めず、気まずささえ感じはじめて、うつむき歩く。

背も高ければ足も長い先生のペースに合わせるのは大変だ。時々小走りになって追いかけていたら
雪流 あなた
___っわ、ぷ

いつの間にか立ち止まっていた先生の背中に衝突した。ダウンジャケットに当たった鼻先がひやりと冷たい。
不死川 実弥
不死川 実弥
………あのよ

静かに、先生が話し出す。
不死川 実弥
不死川 実弥
ひとつ、聞いてもいいか。嫌なら無理に答えなくてもいい。俺は聞く資格も知る権利もねェ。柄にもねェが、お節介ってやつで今こうしてる。

再び歩きはじめた先生は、私の隣に並んで歩く。車通りも途絶えた深夜の道。私たちの爪先は同じほうを向いている。

私は何も言わず、ただ先生の隣をゆっくり歩いた。先程までバラバラだった歩幅が今は同じ。二人で帰る星空の下の帰り道。
不死川 実弥
不死川 実弥
さっきの

と、先生は言った。
不死川 実弥
不死川 実弥
ひとり暮らしって………どういうことだ。

一歩。また、一歩。
歩むのと同じテンポで聞こえる低い声。
不死川 実弥
不死川 実弥
十七そこらのお前がひとりで暮らして、深夜に飲み屋で働いてる。どう考えても穏やかじゃねェ。
不死川 実弥
不死川 実弥
産屋敷先生のご厚意は分かる。あの人はお前ら生徒に確固たる意思があると分かれば、死地にすら送り出すだろォよ………だが、俺はそこまで人間が出来てねェ。お前さえ良ければ、何があったのか聞かせて欲しい。



















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不死川 実弥
不死川 実弥
放っとけねェんだ、雪流。