第72話

昔話
雪流 あなた
………、………っ

気が付くと私は泣いていた。
大粒の涙がぼろぼろ零れ落ちていた。
止めようにも止められず、あれ、あれと何度も制服で拭う。
私の様子がおかしいことに気づいた先生は視線を降ろし、こちらを診るなりギョッとして
不死川 実弥
不死川 実弥
は?!!!
となかなかの大声を出した。
不死川 実弥
不死川 実弥
は、え、どうした何で泣く?!!
雪流 あなた
っ、分かん、ない………何でだろ、自分でも、理由が………突然泣いたりして、ごめんなさい……っ……

しばらくそうやってずべずべ泣いていた私だったが、いい加減ウザいやつだなと自分で思い始めて強く舌先を噛んだ。舌に刺激を加えると涙が止まると、昔、施設長が言っていた。

ようやく落ち着きを取り戻し、急に泣き出したことを先生にもう一度謝ってから、私はぽつぽつと話し始める。
雪流 あなた
………ゆりかごの家という施設で中学生まで過ごしてた。私には家族がいないの

生まれて間もなく実の親に捨てられたこと。それがコンビニのトイレだったこと。
施設長が親代わり。収容されている子供たちが兄弟姉妹代わり。唯一の楽しみは、近所にある床屋さんから貰うお古のジャンプだったこと。
雪流 あなた
小学生のとき一度だけ養子縁組をしたんだけど、全然うまくいかなくて。施設に戻ってからは引きこもりがちに。気付けば最年長……こんなに入所期間が長いのは私だけ。ずっと、自分はお荷物だと思ってた。
雪流 あなた
キメツ学園に入学する時、正直、凄く不安だった。きっと、キラキラしてて今どきの高校生って感じなんだろうなって。施設出身の私が馴染めるのかな。
雪流 あなた
嫌われたり、虐められたりしないかなって。

でも、そんなのただの偏見でしかなかったと、入学してすぐに気づいた。

炭治郎は早くにお父さんを亡くして、長男の俺がしっかりしなきゃって朝早くから家を手伝ってる。伊之助はリアルもののけ姫だけど、自分の育ちを悲観することも理由にすることもせず、里親のお婆ちゃんを大切にして強く生きてる。

墮姫さんと謝花先輩。
突然店に転がり込んできた私を、まるで昔馴染みの仲間のように受け入れてくれた。境遇が似ていることもあって、二人とも姉や兄のように接してくれる。

みんな同じだった。
本当は悲しくて、寂しくて、泣きじゃくってしまいたいくらい辛いけど、でも毎日頑張ってる。頑張るって楽じゃない。言うのは簡単だけど、実際やろうとすると凄く辛い。凄く凄く辛い。

でも、みんな頑張ってるんだ。
辛いのは私だけじゃない。