第9話

俺たちに必要なのは、一歩を踏み出す勇気だ
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2019/11/24 21:09
家に荷物を取りに行っていた家族が帰ってくる。

今の話を聞いていたのか、
お母さんはものすごい剣幕で悠貴を睨んだ。
お母さん
お母さん
あなたの友達だから連絡したけど、
この子を惑わすなら金輪際、
この子とは関わらないでちょうだい

それを聞いた神谷くんは、ふんっと鼻で笑う。
神谷 鉱
神谷 鉱
惑わしてんのは、どっちなんだかね
お父さん
お父さん
なんだと?
険しくなるお父さんの表情に、
神谷くんは肩をすくめた。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
お父さん、お母さん、
それからお兄さんも。
俺の話を聞いてくれませんか?
一歩前に出た悠貴の目は曇りなく真っすぐで、
それに圧倒されたお母さんたちは口を噤む。

それを皮切りに、悠貴は話し出す。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
人がひとりで歩けないのは当然です。
ときには人生の先輩である両親の……
大人の言葉が必要になることも
あると思います
お父さん
お父さん
そうだろう。だから俺たちはあなたが
勝ち組の人生を歩めるように……
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
だけど、俺たちはもう16です。
ちゃんと自分の頭で、
なにに向かうべきか考えられる
お母さん
お母さん
でもっ、道を間違ったらどうするのよ!
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
道を間違えない人なんて
いるんでしょうか?
お母さん
お母さん
それは……
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
失敗するたびに人は成長できる
んだって、俺は両親から教わりました。
だからたくさん転んで傷ついて、
立ち上がる強さを身につけなさいって
悠貴の言葉に、ついに口を挟む者はいなくなった。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
俺たちから、考える機会を奪わないで
ください。どうか、もっとあなたさん
のことを信じて応援してあげてください
(悠貴……)

否定されてきた過去を塗り替えるように、
悠貴の言葉が私という存在を認めてくれる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
俺たちが必要としてるのは
決められたレールじゃなくて、
一歩を踏み出す勇気です
ずっと言えなかった私の心を
悠貴は代弁してくれていた。

悠貴が話し終えると、
しばしの沈黙が下りた。

そして、最初に口を開いたのは
意外にもお兄ちゃんだった。
お兄ちゃん
お兄ちゃん
……悠貴くんの言うとおり
なのかもしれない
お母さん
お母さん
あなたまで……なにを言い出すのよ
お兄ちゃん
お兄ちゃん
だって俺は父さんと母さんの
言われるがまま歩いてきただけで、
なにひとつ自分で選択してない。
それって、ただ楽でなんの
上り下りもない人生だなって
あなた

お兄ちゃん……

お兄ちゃん
お兄ちゃん
あなた、お前は知らないと思うけど、
俺はずっとあなたに対して
劣等感があったんだ
あなた

え……

(勉強もできて、常にお父さんや
お母さんの期待に応えてきたお兄ちゃんが?)

信じられない気持ちで、
私はお兄ちゃんを見つめる。
お兄ちゃん
お兄ちゃん
お前は自分で行く高校を選んで、
しかも父さんたちに意見しただろ? 
それがさ、なんでも言うとおりに
生きてきた俺からしたら、
かっこよく見えたんだ
(お兄ちゃんは私と同じなんだ)

自分の意志で生きている人が眩しく見えた。

だから、自分が霞まないようにって、
距離をとって、冷たく当たってしまった。
あなた

お父さん、お母さん。お願い──


自分の気持ちが固まった私は、
改めて両親の顔をまっすぐに見据える。

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