家に荷物を取りに行っていた家族が帰ってくる。
今の話を聞いていたのか、
お母さんはものすごい剣幕で悠貴を睨んだ。
それを聞いた神谷くんは、ふんっと鼻で笑う。
険しくなるお父さんの表情に、
神谷くんは肩をすくめた。
一歩前に出た悠貴の目は曇りなく真っすぐで、
それに圧倒されたお母さんたちは口を噤む。
それを皮切りに、悠貴は話し出す。
悠貴の言葉に、ついに口を挟む者はいなくなった。
(悠貴……)
否定されてきた過去を塗り替えるように、
悠貴の言葉が私という存在を認めてくれる。
ずっと言えなかった私の心を
悠貴は代弁してくれていた。
悠貴が話し終えると、
しばしの沈黙が下りた。
そして、最初に口を開いたのは
意外にもお兄ちゃんだった。
(勉強もできて、常にお父さんや
お母さんの期待に応えてきたお兄ちゃんが?)
信じられない気持ちで、
私はお兄ちゃんを見つめる。
(お兄ちゃんは私と同じなんだ)
自分の意志で生きている人が眩しく見えた。
だから、自分が霞まないようにって、
距離をとって、冷たく当たってしまった。
自分の気持ちが固まった私は、
改めて両親の顔をまっすぐに見据える。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。