夕食の席で、お母さんに問われた私は
急に食欲が失せて箸を置く。
大企業の社長を務めるお父さんと、
お金持ちの奥様であることに
誇りを持ったお母さん。
常に人目を気にして、
身に着けるもの、肩書、すべてが
一流でトップじゃないと気が済まないんだ。
(ああ、この家は息が詰まりそう。
誰も、私自身の気持ちを聞こうとしてはくれない)
その場しのぎの返事をして、
夕食の半分も手をつけずに席を立つ。
自分の部屋に戻ってくると、私ははあっと
ため息をつきながらベッドに突っ伏した。
(あの人たちといると、自分には価値がない
って言われてるような気がする)
自分の腕に顔を埋めたとき、
枕元に放り投げてあったスマホが鳴る。
重い腕を伸ばしてスマホを引き寄せると、
画面に表示されているのは電話番号だけだった。
それもそのはず、なぜか私の電話帳はまっさらで、
家族ですら誰ひとり登録されていなかったのだ。
(記憶を失う前、私が消したのかな?)
かけてきた人はわからないけれど、
とりあえずスマホの通話ボタンを押して耳に当てる。
そう言って、ははっと笑う悠貴は
少し無理しているように思えた。
(どうして、わかったんだろう)
私はさっき両親に言われたことを洗いざらい話す。
いつもにこやかな悠貴には珍しく、
強い声で私の言葉を遮った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。