退院した翌日、私は学校に来ていた。
悠貴と神谷くんの3人でご飯を食べていると、
教室の入り口に隣のクラスの女子が3人、
集まっているのに気づく。
(なんだろう、あれ)
教室の中を見回しているところを見ると、
誰かを捜している様子だった。
少しして、クラスメイトの女の子が
私たちのいる机までやってくる。
焼きそばパンにかじりつこうとしていた
悠貴は、袋にそれを戻すと立ち上がる。
後ろ髪を引かれるのか、
何度も振り返りながら女の子たちと
教室の外へ出ていく悠貴。
(なんだろう、胸がすっきりしない。
話なら教室の前でもできるのに、
どうして教室から離れていく必要があるの?)
焦りが募って、私は戸惑う。
(ここではできない話をするのかな?
それって、告白とか?)
そう思ったら、
今度はズキズキと胸が痛みだす。
複雑な気持ちで悠貴たちを見送っていると、
神谷くんがぶっと吹き出した。
今までの私は人と付き合うときに、
深く踏み込まないようにしてきた。
いつか失望されて、大事な人が離れていく
痛みを少しでも和らげるためだ。
その癖は親友ができてからも、
なかなか抜けきらなかった。
(でも、もっと踏み込んでもいいのかな。
大事な人のことは、特に)
それを聞いた神谷くんは目を見張って
驚いていたけれど、すぐにうれしそうに
はにかんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。