第8話

教えてほしいんだ。きみが抱えていたもの
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2019/11/17 21:09
止められない涙もそのままに、
私は何度も「ごめんね」と謝った。

すると悠貴は私を抱きしめて、
背中をあやすようにトントンと叩く。

その間、神谷くんも心配そうに
見守ってくれていた。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
なにを思い出したか、話せる?
私は頷いて、先ほど思い出した
記憶のことを話す。

それに覚えがあったのか、
悠貴は悲しげに微笑んだ。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
ひどいことを言ったのは、俺のほうだよ
あなた

そんなことないっ

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
ううん、俺はあなたに突き放されたことに
ショックを受けて、それ以上
踏み込むのをやめてしまったから
あなた

でもそれは、私が離れてもいいなんて
言ったから……

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
あなたが俺に話せない理由が
あったはずなんだ。それなのに、
俺は表面上の言葉に騙されて、
あなたをひとりにした
あなた

悠貴……

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
今度こそ、俺はあなたをひとりに
したくない。教えてほしいんだ。
きみが抱えていたものがなんなのかを
その言葉に知られてしまうことへの
恐怖が消えていく。

私は深呼吸をしてから、
ふたりに中学受験に失敗してからのことを話す。

両親や兄に『ダメな子』だと言われ続け、
気づいたら自分の価値を見失っていたこと。

自由に生きている他人と比べて、
いっそう自分にはなにもないことを
実感してしまったこと。

だから、自分の部屋から飛び降りてしまった
のだと話す。
神谷 鉱
神谷 鉱
あなたちゃんは、
誰かに自分自身を見てほしかったんだな
あなた

きっと、そうなんだと思う。
だから飛び降りて、
私自身を見てほしかった。
そうすれば、私には価値があるんだって、
再確認できるかなって

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
……っ、つらかったな
悠貴は声を震わせながら、
私をぎゅっと抱きすくめる。
佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
自分の価値を見失うほど、
寂しくて、苦しくて、怖かったんだなっ
(あ……そうだ。
私は寂しくて、苦しくて、怖かったんだ)

弱い自分を隠しているうちに、
いつの間にか──。

私は自分の気持ちすら、
見失ってしまっていたみたいだ。
あなた

ううっ……

私は悠貴の首に腕を回して、声をあげて泣いた。
あなた

私っ、どうして
このままじゃダメなのかな? 
親の決めた道を歩かないことは、
いけないことなの……?

佐久間 悠貴
佐久間 悠貴
そんなことない! 
それにあなたはダメな子なんかじゃない。
あなたはあなたのままでいいんだ
神谷 鉱
神谷 鉱
そうだよ。あなたちゃんの人生を
決める権利は、親にだってないよ。
あなたちゃんの望むように生きなきゃ
ふたりの言葉が親の期待に
がんじがらめになって、
自由を失っていた私の心を解き放ってくれる。

するとそこへ……。
お母さん
お母さん
そんなのダメよ!

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