止められない涙もそのままに、
私は何度も「ごめんね」と謝った。
すると悠貴は私を抱きしめて、
背中をあやすようにトントンと叩く。
その間、神谷くんも心配そうに
見守ってくれていた。
私は頷いて、先ほど思い出した
記憶のことを話す。
それに覚えがあったのか、
悠貴は悲しげに微笑んだ。
その言葉に知られてしまうことへの
恐怖が消えていく。
私は深呼吸をしてから、
ふたりに中学受験に失敗してからのことを話す。
両親や兄に『ダメな子』だと言われ続け、
気づいたら自分の価値を見失っていたこと。
自由に生きている他人と比べて、
いっそう自分にはなにもないことを
実感してしまったこと。
だから、自分の部屋から飛び降りてしまった
のだと話す。
悠貴は声を震わせながら、
私をぎゅっと抱きすくめる。
(あ……そうだ。
私は寂しくて、苦しくて、怖かったんだ)
弱い自分を隠しているうちに、
いつの間にか──。
私は自分の気持ちすら、
見失ってしまっていたみたいだ。
私は悠貴の首に腕を回して、声をあげて泣いた。
ふたりの言葉が親の期待に
がんじがらめになって、
自由を失っていた私の心を解き放ってくれる。
するとそこへ……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。